12月

2023/12/14 回想2023 地球は戦闘と自然災害に直面 恨みの連鎖を断つには―


旧統一教会への解散命令請求に先だって開かれた宗教法人審議会(10月12日) 新型コロナ対策として3密(密閉、密集、密接)回避が続いてきたが、5月には5類に移行し、徐々に日常生活が戻ってきた。訪日外国人も目立ってきた。

 こうした活発化は歓迎だが、ロシア・ウクライナ戦争に続いてパレスチナのイスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃に端を発した戦闘は歓迎できるものではない。10月からの2カ月でパレスチナ自治区ガザでは1万7千人が犠牲になった。ハマスの奇襲攻撃は強く非難されなければならない。同時にイスラエルの過剰な反撃には疑問がある。

 仏教界の声明で法句経の一文「怨みに報いるに怨みを以てしたならば、ついに怨みの息(や)むことがない。怨みをすててこそ息む」(中村元訳)が提示された。普遍的なこの教えが宗教を超えて受容され、怨みの連鎖を断つにはどうするか、智慧を絞らなければならない。

 ところでイスラエルは明らかにしていないが核保有国とされる。実際、イスラエル政府の閣僚が「核兵器使用が選択肢の一つ」と発言している。ロシアは世界最大の核保有国である。核保有国や日本などは批准していないが、核兵器禁止条約に規定されている禁止事項には「威嚇」も含まれる。同条約の重要性が改めて認識される。

 今年はまたシリア・トルコ地震をはじめ今夏の干ばつや熱波、森林火災などが地球規模で頻発した。日本でも猛暑が続いた。国連のグテーレス事務総長の「地球沸騰化の時代が到来した」との発言は記憶に新しい。

 21世紀の人類社会は、人為的な戦争・紛争・対立と自然災害(人為的な要因もあるが)に直面している。そして共に解決策を見出せていない。2030年を期限としたSDGs(持続可能な開発目標)は、国連加盟国が賛同したものであり、実行が強く望まれる。

 誕生・領解文・女性
  
 国内宗教に目を移すと、弘法大師空海生誕1250年および親鸞誕生850年/浄土真宗立教開宗800年の記念事業が相次いだ。

 浄土真宗本願寺派においては1月に新しい「領解文」(浄土真宗のみ教え)が発表されたものの、混乱は今も続いている。 弘法大師1250年関係では、多くの本山が「済世利人(民)」を主張した。世を救い人々に利益をもたらすという意味だが、綜芸種智院や治水など社会事業を手がけた弘法大師の法脈に連なる人たちは、民衆救済の行動が期待される。

 この一年で注目されるのが女性の進出である。昨年12月15日、西山浄土宗総本山光明寺(京都府長岡京市)で沢田教英管長(法主)の晋山式が行われた。4月10日には東寺真言宗大本山石山寺(滋賀県大津市)に鷲尾龍華座主が晋山。同19日には真宗興正派本山興正寺(京都市下京区)で華園真慶氏の嗣法就任式が行われた。9月には真宗大谷派宗会議長に望月慶子氏が就任した。

 伝統教団の議会では少しではあるが、女性議員の誕生が見られるようになった。宗政に女性の声を反映していく制度が各教団には求められる。ちなみに旧統一教会(世界平和統一家庭連合)への質問権行使で注目された宗教法人審議会(第36期)は19委員中、9人が女性である。

 解散・宗教二世

 10月には旧統一教会に対して宗教法人法に基づく解散命令請求が東京地裁に出された。文化庁は170人を超える被害者らにヒアリングを実施し、様々な証拠資料を収集した。これらは裁判所に提出された。これからは裁判所で争われることになるが、しばらく時間はかかりそうだ。

 徐々にその実態が周知されるようになった宗教2世問題。旧統一教会2世の言葉「親の苦悩を救った教義が子どもを縛りつけている」(『だから知って欲しい「宗教2世」問題』筑摩書房)が象徴するように、統一教会やエホバの証人では体罰を正当化するケースがある。宗教虐待に対して昨年12月、厚労省がガイドラインを通知。身体的虐待・心理的虐待・性的虐待・ネグレクトの4項目を掲げており、宗教虐待への指針となり得る。

 創価学会、歴史検証必要

 11月に入って飛び込んできたのが創価学会の池田大作名誉会長死去のニュースである。新聞やテレビでは公明党創立者ということもあり、政治的な面からの解説やコメントが目立った。だが、池田氏が現役会長だった時代、宗教界と摩擦があり、それに悩まされた寺院や教団は少なくないはずだ。

『日蓮宗事典』の創価学会の項目を見てみよう(一部)。〈同(昭和)四四―五年に言論出版妨害抑圧事件を起し、批判を拒絶する閉鎖排他の組織体質と政教一致・国教化の主張を糾弾する世論が高まるや、池田(大作氏)は表面的に学会のあり方を陳謝すると共に強引な折伏活動の停止、政教分離、国立戒壇論の否定を語った〉

 「強引な折伏活動の停止」とあるが、文字通り表面的に過ぎない。2年前に発表された創価学会憲章には「仏法の寛容の精神に基づき、他の宗教的伝統や哲学を尊重して―」とある。池田氏亡き後の創価学会は、寛容の精神や他宗教尊重の前に、過去の教団史を検証し総括することが必要ではないか。(工藤)

2023/12/14 H1法話グランプリ2023 歌説法からマッスル法話まで 御室派・小谷剛璋氏に栄冠


発心の素晴らしさを説いたグランプリの小谷氏 45歳以下の若手僧侶が個性的な法話を披露しあう「H1法話グランプリ2023」(森圭介実行委員長)が2日、奈良市のなら100年会館で開催された。回を重ねるごとに人気が高まっており、今回は約1450人の観客がホールをほぼ満席に。5人の審査員による厳正な審査、並びに会場の「もう一度あいたい」と思ったお坊さんへの投票でグランプリが決定した。

 予選を勝ち抜いてこの日登壇したのは川野真広氏(浄土宗)加藤圓清氏(日蓮宗)小谷剛璋氏(真言宗御室派)永井義寛氏(天台宗)宮本覚道氏(曹洞宗)梶浦邦康氏(臨済宗方広寺派)髙渕弘明氏(黄檗宗)枝廣慶樹氏(浄土真宗本願寺派)。二胡を叙情的に演奏した川野氏、アコースティックギターで盛り上げる加藤氏のような音楽法話もあれば、味わい深い宮崎弁でツカミつつ、日常当たり前にあるものへの感謝の大切さを説く永井氏、先祖供養の大切さをひたむきに説く梶浦氏といった正統派の法話も。枝廣氏は高校生だった時に初めて携わった葬儀の失敗談とそこからの成長をユーモラスに語った。

 髙渕氏は、檀家の「おばあちゃん」の息子が異国で不慮の死に遭遇したことを仏事でケアした経験を語り、審査員の宮崎哲弥氏から「不遇死、非業死についてどう法話するかは難しいが、仏教の中核的テーマだと思う。それが実体験に基づいてよく説かれている」と高い評価を受けた。ベンチプレスアジアチャンピオンのマッスルな肉体で異彩を放ったのが宮本氏。幼稚園の子どもたちに「今を一生懸命生きること」を伝えたいために肉体訓練に励んだといい、やり遂げた時に自ら禅語「廓然無聖」の心持ちになったことを語った。

 小谷氏は昨年得度させたばかりの弟子の「浄休さん」が、あれよあれよという間に自分も行ったことのないインドに旅立ち、そこで佐々井秀嶺氏と出会って、6月の総本山仁和寺での講演会にも招いたその行動力に驚愕した話を披露。「発心って凄いなと。私なんかお寺に生まれて高野山に登って仁和寺で10年働いて、今は『寺が潰れそうでヤバイ』って言っている」と少々自虐的ギャグも交えつつ、仏道求道の尊さを語った。

 厳正な審査と投票の結果、審査員特別賞には宮本氏が選ばれた。「私の方が皆さんにもう一度あいたいです」と宮本氏。そして「圧倒的」な支持でグランプリに選ばれたのは小谷氏。「まさにチーム戦だと思って練習してまいりました」と、浄休さんら周囲の協力に涙ぐみながら感謝。「蒜山高原という岡山県の最果てにおりますので、ぜひお越しください」と、いつでももう一度あいに来てほしいと呼びかけた。

 審査員長の釈徹宗氏は、それぞれの工夫、趣向が素晴らしく、過去一番「揉めた」審査だったと総評。一方で「今回は初めて女性僧侶の登壇がなかった」と残念がり、女性のチャレンジを熱望した。

2023/12/14 2023年 仏教・宗教関係書 今年の3冊


 イスラム組織ハマスとイスラエルの軍事衝突から2カ月が経ち、パレスチナでは深刻な人道危機が起きている。ロシアとウクライナの戦争も終息の兆しが見えない。国内では統一教会に対する解散請求が東京地裁に提出された。新宗教教団の指導者が相次いで亡くなった激動の一年。仏教書・宗教書にはどんな成果があっただろうか。

※数字は順位ではありません。紙面では選者による評も掲載しています。ぜひ紙面もご覧下さい。

下田正弘(仏教学/インド哲学)
武蔵野大学教授・東京大学名誉教授

① 阿部龍一著『評伝 良寛――わけへだてのない世を開く乞食僧』ミネルヴァ書房
② 小西達也著『インターフェイス・スピリチュアルケア――永遠と対話の根源へ』春風社
③ ロイ・W・ペレット著(加藤隆宏訳)『インド哲学入門』ミネルヴァ書房

猪瀬優理(宗教社会学)
龍谷大学教授

①塚田穂高・鈴木エイト・藤倉善郎編『だから知ってほしい「宗教2世」問題』筑摩書房
②ポリタスTV編、山口智美・斉藤正美著『宗教右派とフェミニズム』青弓社
③富坂キリスト教センター編、山下明子他著『日本におけるキリスト教フェミニスト運動史―1970年から2022年まで』新教出版社

安中尚史(日本仏教史)
立正大学教授

①小林惇道著『近代仏教教団と戦争―日清・日露戦争期を中心に』法藏館
②福島栄寿著『近代日本の国家と浄土真宗―戦争・ナショナリズム・ジェンダー』法藏館
③石原和・神田秀雄・吉水希枝編『近代如来教と小寺大拙』JETDA

菅原研州(曹洞宗学)
愛知学院大学准教授

①平岡聡著『言い訳するブッダ』新潮新社
②枡野俊明著・松重豊著『あなたの牛を追いなさい』毎日新聞出版
③末木文美士著『近世思想と仏教』法藏館

堀内規之(真言密教教理史)
大正大学教授

①遠藤祐純著『弘法大師空海―年譜をめぐって』ノンブル社
②大塚伸夫著『中期密教経典と菩提心』春秋社
③潮弘憲著『真言密教事相概論』法藏館 

塚田穂高(宗教学・宗教社会学)
上越教育大学大学院准教授

①鈴木エイト著『自民党の統一教会汚染 追跡3000日』小学館
②ポリタスTV編、山口智美・斉藤正美著『宗教右派とフェミニズム』青弓社
③岡本亮輔著『創造論者vs. 無神論者―宗教と科学の百年戦争』講談社選書メチエ

松尾剛次(日本仏教史)
山形大学名誉教授

①阿部泰郎他編『ハーバード美術館―南無仏太子像の研究』中央公論美術出版
②岩田文昭著『浄土思想―釈尊から法然、現代へ』中央公論新社
③末木文美士著『近世思想と仏教』法藏館

名和達宣(真宗学/近代日本思想史)
真宗大谷派教学研究所所員

①岩田文昭著『浄土思想―釈尊から法然、現代へ』中央公論新社
②磯前順一・吉村智博・浅居明彦監修、小倉慈司・西宮秀紀・吉田一彦編『シリーズ宗教と差別 第3巻 差別の地域史―渡辺村からみた日本社会』法藏館
③高橋源一郎著『一億三千万人のための『歎異抄』』朝日新聞出版

文芸編今年の三冊
内藤麻里子(文芸評論家)

①宮内悠介『ラウリ・クースクを探して』(朝日新聞出版)
②岩井圭也『楽園の犬』(角川春樹事務所)
③岩村暢子『ぼっちな食卓』(中央公論新社)


2023/12/14 難聴児に葬儀伝える絵本発刊 当事者の子持つ僧侶ら制作 誰もおいてけぼりにしないために


絵本を手にする作者の一人、青龍寺さん 耳が聞こえにくい子どもにも葬儀の意味を知ってほしいと、当事者の親である僧侶・青龍寺空芳さん(33)が、寺院出身の手話通訳士・石川阿(ほとり)さん(34)とともに絵本『おとなといっしょによむ おそうしきのえほん』をつくった。青龍寺さんは「誰もが大切な人とお別れできる権利があります。葬儀でおいてけぼりになる人がいなくなるよう願っています」と話す。

 監修した仏教情報センター(東京・本郷)の設立40周年に合わせ、記念大会が行われた11月7日に発行された。きっかけは石川さん(八王子市・浄土真宗東本願寺派立雲寺)が昨年、祖父を亡くした難聴児のため通訳として葬儀に参列したこと。葬儀や仏教の用語を表す手話はほとんどなく、そもそも未就学の子どもたちに死や葬儀のことを伝えることが難しかった。

 大人になってからも、葬儀後に内容を家族から知らされる難聴者もいるという。「聞こえない人はその場にいないような気持ちになります。そんなおいてけぼりの状況を仕方ないと諦めてほしくない」と石川さん。子どものときから葬儀に参列できるようになればと、絵本づくりを青龍寺さんに持ち掛けた。

 青龍寺さん(東京都台東区・真言宗智山派仙蔵寺住職)は、今年6歳になる長男が2歳のときに耳が聞こえにくいと分かり、それ以来手話を学んでいる。難聴児を持つ親たちの勉強会を開く石川さんと知り合ってからは、お盆や施餓鬼の法要で手話通訳をしてもらうなどの活動もしている。

葬儀の流れや手話のイラストが豊富な絵本 絵本づくりは昨年秋にスタート。真言宗以外の葬儀も知るために、同年春から所属する仏教情報センターにアドバイスを求めた。当初はお経の意味や各宗派の教えも盛り込まなければと考えていたが、「子どもたちの気持ちに寄り添うほうが大切」との声が多かった。

 完成した絵本には、葬儀の流れや大切な人を亡くした家族の気持ちを表す絵だったり、手話のイラストだったりが解説とともに掲載されている。親子で一緒に学ぶ日常の読み物としても使用できる。

 絵本の制作にあたって住職などに行ったアンケートでは、「葬儀に難聴者がいると考えたことがなかった」との回答もあった。「この絵本が難聴者の置かれた状況や、誰もが参列できる葬儀について考えるきっかけになれば」と石川さん。10年間の都立ろう学校教員を経て言語聴覚士の資格を取得し、現在フリーランスとして活動するが、「ろう学校や寺院を回って絵本のことを話していきたい」と話した。

 長男と一緒に絵本を読んだ青龍寺さんは「難聴児にとって苦手な想像力を養うことができると思います。亡き人との関係は続いていくと、知ってほしい」と語った。

 1冊700円(A5判・30ページ、送料別)。仙蔵寺のHPから購入できる。

2023/12/7 第58回大阪府佛教徒大会 万博中に仏教徒会議開催 万博プロデューサー石黒浩教授が講演 アンドロイドが心を表現


挨拶でいのちの流れについて話す村山会長 大阪府佛教会(村山廣甫会長)と大阪府佛教青年会は11月22日に第58回大阪府佛教徒大会を大阪市のホテル日航で開催した。2025年の大阪万博期間中に開催される第47回全日本仏教徒会議大阪大会の開催に向け、万博テーマ事業プロデューサーの一人であるロボット工学者の石黒浩氏(大阪大学教授)を講演に招き、士気を大いに高めた。

 冒頭の全国災害物故者・会員物故者追悼法要は真宗高田派寺院が担当した。村山会長は開会にあたり、自坊の曹洞宗萩の寺東光院(豊中市)の萩の木は毎年、花の終わりの勤労感謝の日に株元まで刈り取るが、翌年にはまた美しく咲く「いのち」の流れがあると語り、さらに「東南アジアの仏教徒に接すると、向こうの人は無条件で輪廻転生を信じている」とし、こうした考えは釈尊の根本の教えであると指摘。

 日本には数多くの宗派があるが、「佛教徒大会におきましてはみな、垣根を低くして同じ同志として歩んでいきたいと思っています。仏陀の教えのために」と、青年時代から超宗派的な活動に取り組んだ村山会長らしく挨拶した。続いて村山会長は、住職在任30年を迎えた35人を祝福し、代表者に表彰状と記念品を手渡した。

 祝辞で全日本仏教会(全日仏)理事長の里雄康意氏は、村山会長が次期(第36期)全日仏副会長に推戴されたことを報告し、「国内外における数々の輝かしい経験をもって全日仏をお導きいただきますよう」と期待を寄せた。また47回仏教徒会議は1962年、1990年以来の大阪開催であり「成功に向け力を合わせて取り組んでまいりましょう」と呼びかけた。

 さらにウクライナやパレスチナの戦争でいのちを失う人、国内でも様々な事情で生きづらさを抱えている人が多くいることに心を痛め、「万博テーマは『いのち輝く未来社会のデザイン』ですが、その生命そのものが脅かされているのが現状」と憂慮し、一致団結して様々な社会問題に取り組めるよう動くとした。

 記念講演で石黒氏は、ロボットと未来社会について語った。京都・高台寺で般若心経を説くアンドロイド観音「マインダー」や、石黒氏そっくりの話し方をする人工知能付きロボットに、参加者は驚嘆。すでにアンドロイドによる演劇も開催されており「十分に人の心を表現できる」という。万博では「見に来た人がアンドロイド一台一台にちゃんと心を感じてもらえるようなものを用意したい」とした。

自見万博大臣のビデオメッセージ 祝賀会には自見英子・万博担当大臣がビデオメッセージを寄せた。当初は出席予定だったが、予算委員会でやむを得ずビデオになったことを詫び、各国からパビリオンの相談を受けている現況を報告。「まさにいのちを考える世界の集まりになる。厳しい経済、外交状況のもとで、平和やいのちを子どもたちが考える機会にしたいので、皆さまのお力をお貸しください」と話した。

2023/12/7 立正佼成会 新理事長に熊野隆規氏


熊野新理事長 立正佼成会は1日、退任を表明していた國富敬二氏に代わって教務部長の熊野隆規(くまの・たかのり)氏が新理事長に就任したと発表した。國富前理事長は徳島教会長に就任した。

 熊野氏は1958年7月生まれ。89 年に入職し、青年部青年教務課、青年本部を経て2001年に青年本部(青年グループ)次長に就任。立川教会長、教育グループ次長、教務グループ次長、時務部長、教務部長を歴任。この間、計3期6年にわたって教団理事を務めた。

 さらに立正佼成会一食平和基金運営委員会の委員長(19 年12 月~23 年11 月)、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会の東日本大震災復興支援タスクフォース運営委員(2016 年4月~19 年3月)などで、災害をはじめとした国内外のさまざまな問題への支援活動に携わった。

2023/12/7 仏教伝道協会 お寺の掲示板大賞2023 過去最多 4千超の応募


大賞を受賞した妙円寺の掲示板 お寺の掲示版を表彰する「輝け!お寺の掲示板大賞2023」(仏教伝道協会主催)の受賞作品が5日、同会ホームページで発表された。今年の仏教伝道協会大賞には大賞には日蓮宗妙円寺(東京都渋谷区)の「ことばだけ立派な者は敵である 釈尊」(撮影者アカウント名@renkouzan)に決まった。また仏教タイムス賞は光蓮寺ビハーラハウス(岩手県盛岡市)の「てえへんだ てえへんだ この俺が死ぬなんて てえへんだ」(同@akilayoshida)が受賞した。



仏教タイムス賞の掲示板 お寺の掲示版の写真をX(旧ツイッター)やインスタグラムに投稿してもらい、標語の有難さやユニークさ、インパクト等で賞を決定。7月1日から9月30日までの3カ月の応募期間中に過去最多の4107作品が寄せられた。その他の入賞作は以下の通り(寺院・標語・投稿者の順)。
【仏教伝道協会本賞】
融通念佛宗専念寺(大阪市)「何が私を苦しめているのか。自分が握りしめている、その物差しです」sennenji1597sub
曹洞宗鳳林寺(静岡市)「三日坊主なら五日目にもう一回」holyjitemple
真宗大谷派超覚寺(広島市)「孤立仏援」@chokakuji
【中外日報社賞】真宗大谷派浄喜寺(福岡県行橋市)「退く一歩」@hiro5936
【文化時報賞】浄土真宗本願寺派正念寺(福岡県豊前市)「ひざ・こし痛みの二刀流 頑張るあなたにMVP」hiroberluti
【寺社NOW賞】真宗大谷派林松寺(大分県宇佐市)「お寺は私に会いに行くところ」@hiro5936
【彼岸寺賞】真宗大谷派超覚寺(広島市)「すべてかりもの」@chokakuji
【まいてら賞】真宗大谷派浄正寺(大分県中津市)「悲しみを通さないとみえてこない世界がある」
@hiro5936
【お寺の窓口賞】臨済宗妙心寺派円成寺(島根県松江市)「三途の川の渡し賃値上げ見送ります」
mskeibimanoken
【寺子屋ブッダ賞】浄土真宗本願寺派照蓮寺(大分県日田市)「うわさ話は賢き人のところで止る」
hiroberluti
【ここより賞】浄土宗潮泉寺(東京都文京区)「疲れたらひと休み。休んだらまた一歩。」la so
urce de vie@1947_2016
【笑い飯哲夫賞】真宗大谷派超覚寺(広島市)「人生みちなりでいいのよ」@4chokakuji

死ぬほど大変なことはなし

 仏教タイムス賞を受賞した光蓮寺ビハーラハウスの吉田明代表の話
 私も後期高齢者になり、今までと違って体も思うように動かなくなり、階段で足を滑らせて転んだ時にふと思いついた標語です。似たようなことを江戸時代の蜀山人(大田南畝)が辞世の句に残しています。「今までは人のことだと思ふたに俺が死ぬとはこいつはたまらん」。死ぬほど大変なことはないですね。

 お釈迦様は亡くなる時に「この世は美しい。人生は甘美である」とおっしゃったと言いますが、甘美とはどういう意味なのかを考えています。私たちは2つの目がありますが、片方は凡夫の目、もう一つは諸行無常を見つめる目だと思います。宗教心に目覚めた時に、いのちが輝いて見えるのでしょう。お釈迦様や先輩方に習って、両目を持つ人になりたいものです。

2023/12/7 全日仏青 新井理事長の就任を祝う 「漫画のような人生」


副理事長と登壇し謝辞を語った新井理事長 全日本仏教青年会(全日仏青)は11月20日、第24代新井順證理事長(和宗仏教青年連盟)の就任祝賀会を大阪市のホテル日航で開催した。全国の青年僧やOBら約120人が集まり、「和」をスローガンに掲げる新井理事長の船出を祝った。

 四天王寺舞楽によるオープニングに続き、来賓が挨拶。全日本仏教会の里雄康意理事長は2025年の全日本仏教徒会議大阪大会に向け「青年会のマンパワーを賜わりたい」と期待。四天王寺の瀧藤尊淳管長は、四天王寺の仏画展にいつも絵を出品し、教誨師も務める多彩な活躍を称賛し、「色々な経験を活かしてお役を務めていただけると確信している」とエールを送った。

 新井理事長は副理事長と壇上に登り、謝辞。「後ろに並んでいる各団体を代表する利き腕の僧侶の中で、ぽつんと布の服と木の棒の初期装備のままで私がいる」と、ゲーム「ドラゴンクエスト」になぞらえユーモアを飛ばしつつ、漫画家を志望して京都精華大学に進学してそこで伴侶に出会ったことや、就職したゲーム会社の社長が夜逃げして「路頭に迷った」困難、そこから出口順得・四天王寺110世から誘われての出家に至る波乱万丈の人生を語った。

 「私は漫画家にはならなかったけど、漫画のような人生が待っていた。そして素晴らしい諸先輩、アドバイスを頂ける方がいる」と、自分の「運の良さ」を長所として「以和為貴」の心で理事長を務める決意を表明した。

 新井理事長は1972年生まれ。在家出身。四天王寺総務部長などを務める。自坊は四天王寺支院の東光院(大阪市天王寺区)。

2023/12/7 死して「池田教」が完成か 邪教呼ばわり過去の反省なく 「2世/信仰/票集め 創価学会・公明党の曲がり角⑱」21世紀政治と宗教研究会



池田氏学会葬当日の創価学会広宣流布大誓堂。半旗が掲げられていた(11月23日) 今年もあと1カ月を切った。新宗教世界の2023年を振り返ると3人のカリスマ的教祖が他界した。

 公称信者数が1千万人と言われた「幸福の科学」の大川隆法総裁(2月、享年66)、同213万人「冨士大石寺顕正会」浅井昭衞会長(10月、享年91)、そしてこの11月15日に817万世帯「創価学会」の池田大作名誉会長(享年95)である。

 同23日午後、創価学会葬が、東京戸田記念講堂(豊島区)で営まれた。その葬儀を前後してある人から電話があった。電話の主は、東京の下町に住む年金生活者の独居老人Aさん。年齢は亡くなった池田氏よりも10歳ほど若い。

 「私は2代会長、戸田先生(城聖、1900~1958)の時代に学会に入信し、青山葬儀場で行われた戸田会長の葬儀(1958年4月)にも参列しました」と語り、「誠に残念なことがあります」と訴えてきた。その中味は、池田氏の死去ではない。急ぐように荼毘に付され、発表までの3日間についてだった。

 Aさんの入信動機は、「学会の究極の信仰目的は成仏です。成仏できない人間は来世で、蛇やネズミになって生まれ変わる」と言われたからだ。Aさんは、死んだ人が成仏した証しはなんですかと質問したところ、「息を引き取ったときの死相は半眼半口で、身体は柔らかい。顔色は生きているのと変わらず頬に赤みをさす」と返ってきた。「成仏の相」である。信仰歴70年余。90歳に近いAさん、「成仏」という切実な願いは今も変わらない。

 「池田先生は戸田先生の教えを継承し『成仏の相』を説いてきた学会の師匠です。最高幹部たちに、なぜ成仏した相を見せなかったのでしょうか。正しい信仰の証明にもなったはずです」と口にした。

 さて1969年末からの出版言論妨害事件の収束をはかるため池田氏は1970年5月、国立戒壇論を放棄し、公明党との政教分離を宣言した。宗門(日蓮正宗)支配を画策した「昭和52年路線」は失敗に終わり、池田氏は「お詫び登山」の後、会長を離職。北条浩氏が4代会長となり、池田氏は名誉会長に就いた。

 その頃から学会の内容が変貌した、と古参学会員は受け止めている。例えば、全国で開かれる“鉄板”行事の座談会。池田氏の著書『人間革命』を学んだり、あるいは池田氏が海外歴訪したフィルム・ビデオの鑑賞や、池田氏の指導の解説などが主流になった。学会員たちは教義よりも、池田氏の教導や言説を核にした。創価学会が、「池田教」と言われるようになった所以でもある。

 現在の原田稔会長執行部は、池田氏の遺訓を踏襲し集団指導体制で臨む。創価学会会憲には「牧口先生、戸田先生、池田先生の『三代会長』は、大聖人の御遺命である世界広宣流布を実現する使命を担って出現された広宣流布の永遠の師匠である」と記されている。

 3人の中で会憲制定時(2017年11月18日)に存命なのは池田氏のみ。加えて、会憲には池田氏が「二十三世紀までの世界広宣流布を展望」したとある。これらを勘案すれば、創価学会は池田氏亡き後も池田氏の遺産を指針として「池田教」に磨きをかけていくのだろう。また死亡発表日の11月18日発行の『創価学会教学要綱』は池田氏監修だが、穏当な記述に終始している。そこには他宗教を邪教(宗)呼ばわりし、罵詈雑言を浴びせてきた過去への反省はない。

 池田氏亡き後、気になるのは教勢である。昭和初期から終戦前後に誕生した新宗教を見ると立正佼成会、霊友会、世界救世教、生長の家などにかつての勢いはない。他の教団と違って『宗教年鑑』以上に正確な教勢を確認することが出来るのが創価学会である。言わずと知れた公明党の国政選挙時の比例獲得票数だ。

 20年ほど前は900万票(05年衆院選)に迫っていた。現在は618万票(22年参院選)である。学会員の高齢化と少子化、2世問題が進む現況下、最後の「永遠の師匠」を失った創価学会「池田教」は衰退するのか、それとも持ちこたえるのか。次期国政選挙に命運がかかる。

11月

2023/11/23・30合併号 浄土宗 川中総長、無投票再選 開宗事業活かす布教等公約


演説する川中宗務総長 浄土宗は議員改選に伴う第131回臨時宗議会を16・17日、東山区の宗務庁に招集し、正副議長、宗務総長を選出した。総長候補者は現職の川中光敎氏のみで、無投票で当選。川中氏は4年前と同様「人々から必要とされる浄土宗」にすることを指針に掲げ、「先輩、同志、後輩の皆さんと出会うことが出来たから総長が務められた。これからも皆様のお力をお借りすることをお願い申し上げたい」と続投にあたり全議員の協力を求めた。

 浄土宗の宗務総長は、議員に限らず宗内全教師に被選挙権があるが、立候補には議員15人の推薦が必要。16日午後4時までに立候補を届け出たのは川中氏のみだった。

 宗制上、立候補者が一人の場合は信任投票も行われない。推薦人を代表して、茂木恵順議員が演説し、1期目の就任直後には「突然のコロナ禍に見舞われ歯痒い思いをしたかとも思います」としつつ、宗務行政を停滞させず、緊急事態規程の制定や清浄華院正常化などの実績を強調。開宗850年は川中総長が完遂してほしいと期待した。

 その後、川中氏が受諾演説をした。5つの公約として①開宗850年事業の成果を活かした檀信徒だけでなく一般人への布教推進、②SNSや仮想空間なども開教エリアと捉え布教師の活躍を後押し、③多様性・機会の平等・社会的包摂を尊重した教師養成課程による教師数増加、④兼務・無住寺院対策と寺院へのサポート、⑤コンプライアンス遵守の徹底による社会からの信頼増加を挙げた。

 総本山知恩院で伊藤唯眞浄土門主から認証を受けた後、16日夕方に記者会見が行われた。無投票当選には「今のところは私の4年間をお認めいただいたのでは」と安堵の色を見せた。旧統一教会をめぐる宗教界の情勢については「われわれ既成の宗派があぐらをかきすぎているのではないか」とし、伝統教団の僧侶が救いを求める人と対話できていなかったことに反省点があるとの認識を示した。

 総長選挙に先立ち、全70議員による議長・副議長選挙が行われた。議長に宮林雄彦氏が53票で当選、副議長は大﨑順敬議員が50票で当選した。

2023/11/23・30合併号 全日仏 次期会長に伊藤唯眞氏 副会長、山川、佐藤、村山3氏


伊藤氏 (公財)全日本仏教会(全日仏)は13日に京都市のしんらん交流館で理事会を開催し、次期(第36期)の会長・副会長を推戴した。会長には伊藤唯眞浄土門主(総本山知恩院門跡)が就任する。浄土宗からの会長は第21期の中村康隆会長以来30年ぶりとなる。

 副会長は山川龍舟氏(真言宗大覚寺派管長)、佐藤義尚氏(新潟県仏教会会長)、村山廣甫氏(大阪府佛教会会長)の3人が選ばれた。いずれも任期は2024年4月1日から2年間。2025年の大阪万博期間中に全日本仏教徒会議大阪大会が予定されている。里雄康意理事長は「大阪府佛教会で万博と関連した企画を考えていると聞いており、それが決まれば当会としても協力していく形になると思う」と語った。

 会長・副会長の経歴は以下の通り。

 伊藤唯眞会長=1931年3月生まれ。佛教大学教授・学長、大本山清浄華院法主などを歴任し2010年から浄土門主。仏教民俗学の権威であり、『伊藤唯眞著作集』(全4巻、法藏館)など著書多数。自坊は滋賀県湖南市の善隆寺。

 山川龍舟副会長=1949年9月生まれ。大覚寺派宗会議員、財務部長、管財部長などを歴任後、2023年から管長ならびに大本山大覚寺門跡・嵯峨御流華道総司所総裁。自坊は広島県福山市の地蔵院。

 佐藤義尚副会長=1965年10月生まれ。真言宗豊山派青少年教化委員、社会福祉法人芳香稚草園理事長、新潟県臓器移植ネットワーク理事長、栃尾仏教会会長などを歴任し、2021年から新潟県仏教会会長。子ども食堂などの活動にも取り組む。自坊は長岡市の寶光院。

 村山廣甫副会長=1943年12月生まれ。世界仏教徒青年連盟人道奉仕常設委員会議長、国際宗教同志会会長、曹洞宗審事院院長などを歴任し2020年から大阪府佛教会会長。著書に『先祖をまつる』など。自坊は豊中市の萩の寺東光院。

2023/11/23・30合併号 草津温泉に五重塔落慶 豊山派光泉寺 地元の新たなシンボル


国内最高地点に建立された五重塔 草津温泉の湯畑を見渡す丘陵上にある古刹・真言宗豊山派光泉寺(群馬県吾妻郡草津町)で10日、令和3年11月に着工した五重塔の新築落慶法要が厳修された。日本屈指の名湯に信仰と癒しの新たなシンボルが誕生。法要を終えた鈴木賢慶(けんぎょう)住職は、「草津温泉に来た方々の安らぎになるような場所にしたい」と力強く語った。

 午前10時半、本堂で法楽を捧げた僧侶約15人が慈雨に潤された境内を進列。関係者約40人と参拝者を前に、導師の鈴木住職が草津全体を守護するかのように温泉街に向かって角塔婆を加持した。

 鈴木住職は、職衆が待つ五重塔内に入り着座。表白で行基菩薩の開山以来1300年以上にわたって信仰されてきた温泉薬師尊による「応病与楽の法薬」の功徳を奉読し、師父である先々代住職からの悲願であった五重宝塔の建立成満に感謝した。

 鈴木住職の姉である熊坂浄恵(じょうけい)前住職が新たに作詞した「光泉寺五重宝塔御和讃」を奉唱。壮麗な唱声で塔内外を荘厳し、職衆の勇壮な読経が五重塔から湯畑へと轟いた。

 日本の仏塔の様式美が完成した中世の形式による五重塔は、檜造21・4㍍、延べ面積30・5平方㍍。裳階(もこし)付きの優美な姿が、落ち着いた温泉街の風情と一体化した景観を作り出している。

 温泉の硫黄成分が常に薫り、国内最高地点となる標高1180㍍に建立された木造五重塔ならではの工夫も随所に施した。朱色はフッ素樹脂塗料を用い、氷点下の積雪にも耐える屋根はこけら色のチタン葺きを採用。基礎は温泉への影響を考慮して地盤を深く掘り下げる杭打ちではなく、地下2㍍に耐圧版を設置した。

 日没後にはライトアップも実施。近所で暮らす女性は、「湯畑から見上げた時に五重塔も目に入る。草津の新たな魅力としてステキな景色が加わった」と喜んでいた。

2023/11/23・30合併号 超宗派有志が靖国神社参拝 拝殿で戦没者慰霊法要営む

 
参道を進む10宗派の僧侶ら約30人 太平洋戦争などの戦没者を慰霊しようと、10宗派の僧侶ら約30人が15日、東京・九段北の靖国神社を合同参拝した。拝殿で執り行った法要で導師を務めた山田隆章・元融通念仏宗宗務総長(大阪府八尾市・法覚寺長老)は「戦争の犠牲者のおかげで今がある。その大切な世で苦しみを抱える人がいる。すべての人が幸せに暮らせる社会となるよう願いたい」と語った。

 世界連邦日本仏教徒協議会と関西宗教懇話会の共催。戦後70年となる2015年から始め、今年で9回目。コロナ禍の間も継続してきたが、参加制限なく僧侶が参集するのは4年ぶり。この日は靖国神社への参拝に先立って、千鳥ヶ淵戦没者墓苑でも慰霊法要を営んだ。

 第二鳥居を出発したお練りの列が神門、中門鳥居をくぐって参道を進み、拝殿に入殿した。僧侶たちは神職による修祓を受け法要を執行。山田氏は表白で、「今日の我が国の繁栄はひとえに国難に殉じられましたご英霊各位のご献身の賜物」と報謝の念を表した。法要後、一行は本殿に昇殿し、哀悼の誠を捧げた。

 山口建史・靖国神社宮司は、祀られている246万6千余柱の神霊の各家では、ほとんどが仏教によって供養されているため、「僧侶の皆さんに法要をしていただき、お喜びのことと思う。神社としてもお礼申し上げたい」と話した。

2023/11/16 仏教情報センター設立40年 築地本願寺で記念大会 苦悩に寄り添う決意 新たに


超宗派の僧侶がそれぞれの作法で営んだ記念法要 超宗派の僧侶が電話で悩みを聞く「仏教情報センター」(東京・本郷)が今年で設立40年を迎え、東京都中央区の築地本願寺で7日、記念大会が開かれた。白川淳敬理事長(本願寺派)は「和やかな生活は仏教を中心とした暮らしの中にあると、これからも伝えていきたい」と人々の苦悩に寄り添う決意を新たにした。

 記念大会のテーマは「聲のちから 祈りのちから」。全日本仏教会の尾井貴童事務総長や全日本仏教婦人連盟の花岡眞理子理事長ら駆け付けた僧侶や関係者100人余りが節目を祝した。

 パネル討論があり、看護師でスピリチュアルケアに携わる玉置妙憂氏(高野山真言宗)のほか、いずれも相談員の関水俊道氏(曹洞宗)と平松敬子氏(大谷派)が登壇。成田善真氏(本願寺派)が司会を務めた。

 玉置氏は、スピリチュアルペインは「実存の危機」と言い換えられ、「答えがないことが特徴で、聞くことしかできない」と説明した。苦しみを巡る物語が書き換えられない限り痛みは止まないと指摘し、繰り返し語るうちに物語は少しずつ改められることから、「私たちにできることは聞くこと。それが唯一のスピリチュアルケアの方法」と強調。「同じ話を何回もできる場所は社会にそうはない」と相談員の役割に期待を寄せた。

 さらに、自殺しようとする人が最後まで携帯電話を手にしていることが少なくないとの調査を挙げ、「最後に誰かとつながりたいと思っているのではないか。電話は最後の砦となる」と電話相談の意義を語った。

 相談員となって25年の関水氏は、東日本大震災後に心の悩みなどの人生相談が増加したことに言及。震災前には全相談件数の半数以下だったが、現在は6割を占めるという。コロナ禍や世界中で頻発する紛争の影響でも無常観を根底とするスピリチュアルペインを抱える人が多くなったと指摘。その苦しみに向き合ったのが釈尊であり、「私たち仏教者がケアにあたる意義がある」と語った。

 心の悩みを専門に受ける大谷派の電話窓口「ココロダイアル」の相談員も務める平松氏は「相談の中で、分からないことは分からないと聞く姿勢も大切。それが語ってもらうことにつながる」と提案。また宗派の電話窓口では、苦しみの相談を受けた側にも負担がかかるため、相談員自身のケアも重視されていることを伝えた。

 記念法要は、各派の作法を取り入れて執行。曹済両門の椅子坐禅に続いて法要が営まれ、浄土宗が五体投地しながら念仏し、真言宗と天台宗が十三仏真言を唱え、日蓮宗が木剣修法で祈祷し唱題した。

2023/11/16 横浜清風高等学校 創立100周年祝う 仏教教育の流れ さらに大きく


伝統をさらに発展させる決意を表明する植野校長 神奈川県内の真言宗寺院が共同で経営する㈻横浜清風学園・横浜清風高等学校(横浜市保土ヶ谷区)が、創立100周年を迎えた。記念祝賀会が7日にみなとみらいの横浜ロイヤルパークホテルで開かれ、約400人が出席。植野法稔学校長は謝辞の中で100周年記念オリジナルソングを活き活きと歌う全校生徒の姿を上映し、「この(智慧と慈悲を説く仏教教育の)流れをさらに大きくしていきたい」と話した。

 開会に際し、吹奏楽部約40人がパワフルな歓迎演奏。優美な装束の生徒代表6人が華麗な散華の舞を披露した。

 藤井義章学園理事長は開会の挨拶で関東大震災と同年となる大正12年(1923)の開校以来の歴史を振り返り、「決して順風満帆ではなかった」と述懐。幾多の苦難や難題を克服しながら学園を維持・継承してきた先人に感謝し、「学校が栄えるかどうかは人としての道を歩んでいるかどうか。(真言宗の教えに基づく)建学の精神を教職員一同が再確認して次の100年に向けて邁進いたす所存」と表明した。

 高野山真言宗の長谷部真道管長が祝辞。100年前の関東大震災からその後の戦災を経て「どん底から這い上がってきた」同学園と日本社会の歩みに言及し、弘法大師御誕生1250年の正当年に創立100周年を迎えたことを寿いだ上で、「未来に向かって(生徒一人ひとりが)自分の個性とキャリアを見つけていける教育を」と同校の今後の展開にさらなる期待感を示した。

 行政や教育の各分野を代表する来賓からも祝辞。同校の「時代の変化に対応した教育」や「子どもたちが主体的に判断し実践する力を育む教育」に加え、弘法大師の綜藝種智院の伝統を汲んだ「世界平和実現への力となる教育」を称賛する声が上がった。

 ㈻高野山学園理事長でもある今川泰伸宗務総長が乾杯の発声。同じ真言宗系学園として「六波羅蜜の実践を教育方針とする」同校の姿勢に深い共感を示した。

 PTA役員の1人は、「この学校は先生方が熱心。保護者に子どもたちの様子を伝えてくれたり、家庭と学校で連携した教育をしてくれる」と感想。「安心して子どもを任せられる」と語った。

2023/11/16 インド政府が大谷大へ寄贈 ダゴール胸像を除幕 99年前に来学 鈴木大拙が通訳務める


除幕の瞬間。胸像右が大臣、左が一楽学長 アジア初のノーベル文学賞作家である詩人のラビンドラナート・タゴール(1861~1941)の胸像が9日、インド政府から京都市北区の大谷大学(一楽真学長)に寄贈された。来日中のヴェラムヴェリー・ムラリーダラン外務担当閣外大臣は多忙なスケジュールを縫って大谷大学を訪問し、除幕式にも立ち会った。

 タゴールは1924年に3度目の来日を果たし、6月16日に大谷大学・龍谷大学・仏教連合会(全日本仏教会の前身)の招聘で京都岡崎公会堂で講演をしており、その際には当時大谷大学教授だった鈴木大拙が通訳を務めた(この日聴講した荻原井泉水の日記によると、演題は「東洋の文化と宗教」)。翌17日には大谷大学で教員らと会食し交流を深めている。

 こういった縁と、近年結ばれた大谷大学とナーランダ大学等との学術交流が評価され、今回の胸像贈呈となった。

 ムラリーダラン大臣は日本とインドの関係を8世紀の仏僧の交流以来の「運命的な絆」とし、近代ではタゴールと岡倉天心の2人が大きな土台を築いたと評価。「来年のタゴール京都訪問ならびに来学100周年を記念し、合同シンポジウムを大谷大学で開催させていただきたい」とサプライズな提案をした。

 一楽学長は昨年、2022年に大学がインド政府から仏教学振興賞を受賞されたことなどにあらためて深く感謝。「学術研究にさらに邁進してまいりたい」と語った。また一楽学長から二河白道の図が大臣に贈られた。

 胸像は像高約80センチ。インドで造立され、石膏に銅像風の色彩が施されている。展示場所は今後検討するという。

2023/11/16 大本開祖大祭 センター跡地取得に感謝 連日、中東紛争終結を祈願


大勢の信徒が平和を祈願。道院やキリスト教からも参列 大本(出口紅教主)は5日、出口なお開祖(1837~1918)の遺徳を偲び全人類の救済と世界の平和を祈る「大本開祖大祭」を京都府綾部市の聖地梅松苑で執行。あわせて五穀など様々な農作物の収穫に感謝する新穀感謝祭も営まれた。約1600人の信徒のほか、台湾の提携教団「道院」ならびに岐阜道院から54人が参列した。

 新米の俵が積まれた長生殿で、「開教131年大本開祖大祭祝詞」などを奏上。玉串捧奠では、海外参拝者代表として日本キリスト教協議会コーディネーターのアン・テレー氏が玉串を恭しく捧げる場面もあった。

 出口教主が先達し、感謝祈願詞(みやびのことば)を奏上、讃美歌を斉唱した。出口教主は挨拶で、「何よりも初めに全国の信徒の皆様に心からのお礼を申し上げたく存じます」とし、長生殿前の農業研究センター跡地が8月31日に競争入札の結果大本が入手して神域となったことを「真摯な祈りと物心両面の信仰的なご支援によるおかげ」と感謝した。

 出口教主は、平成13年8月30日(教主に就任して初めての神集祭の最終日)に、当時の祭務部長から、出口すみこ二代教主が「あそこは後に大本のもとになる」と言った話を聞いた。それが心から離れることはなかったが、「当時は全く現実的ではなく、遠い遠い将来のことだろうと思っていました」と述懐。22年の時を経て神域になったことに「思わず飛び上がるほど感謝と喜びで胸が一杯になりました」と笑顔を見せた。

 まず同地に綾機神社を造営することを宣言。「神様から頂戴した土地ですから、何よりも一番に神様にお喜びいただけますように」としつつ、信徒や綾部市民にも喜んでもらえる場所を作りたいと決意。さらに令和7年の人類愛善会創立100周年を記念した「綾の聖地エルサレム大本歌祭」も同地で本宮山を仰ぎながら開催すると発表した。大本では「エルサレム」という言葉に天国楽土の意味を持たせている。

 それだけに中東紛争には心を痛め、教団一丸となって「中東地域大規模武力紛争早期終結祈願祝詞」を毎日奏上していることも語り、「世界中の真の宗教者、信仰者はどの宗教であっても等しく真の平和を強く望んでおり、決して武力やお金や権力によって引き起こされる争いなど誰一人望んではおりません」と宗教の力に期待を寄せた。(続きは紙面でご覧ください)

2023/11/9 大荒行入行会 日蓮宗加行所54人 過去50年で最小 


入行会で渾身の読経を行う入行僧ら(法華経寺) 祈祷修法を習得するために「寒一百日」間の苦修練行に籠る日蓮宗大荒行の入行会が1日、千葉県市川市の大本山中山法華経寺(新井日湛貫首)日蓮宗加行所(若松宏泉伝師)と日蓮宗遠壽院荒行堂(戸田日晨伝師)でそれぞれ厳修され、過酷な修行の日々が始まった。法華経寺での行堂一本化から50年目を迎えた日蓮宗加行所には54人が入行。この50年で最小人員での入行会となった。

 日蓮宗加行所では54人(初行19人、再行12人、三行5人、四行7人、五行8人、参籠3人)が入行。昨年は116人(内初行僧64人)が入行しており、今年度は初行僧が40人以上減少した。

 初行の大幅減少の背景には、新任教師数の減少やコロナ禍などの複合的な要因がある。入行僧の資質向上のため2016年に入行資格を「満23歳」から「教師認証後3年以上」とする入行資格の厳格化を実施。翌年から入行者数は一時減少した。折からの新任教師数の減少に加え、コロナ禍の間に加行所と同様に教師資格を得る信行道場も中止せざるを得なかったため、新たに入行資格を得る者が減少。再開された昨年の加行で、入行を待っていた潜在的な初行志願者の多くが入行していたものと思われる。

 田中恵紳宗務総長は「昨今の人口減少社会に歩調を合わせるがごとく、宗門の教師も減少の一途をたどっている。加行僧も減少傾向が続くと思われる」とした上で、「今までにない少人数による本年の荒行堂は、未来を占うものとなり得る。すべての宗門人が注目する一百日間であると肝に銘じて入行をしていただきたい」と要望。布教の前線に立つ修法師になり、「末法の世を照らす能化となることを心から願っている」と力強く激励した。

 新井伝主は、入行会や成満会を行っている祖師堂が現在改修中であり、「皆さんが成満する来年2月10日には綺麗に仕上がっていると思う。来年またこの場でお会い致しましょう」と言葉を贈った。若松伝師は「一巻、一句、一字でも多くお経を読ませていただく。大変な苦しい修行が待ち構えている。耐えて、耐えてほしい」と訓示。最後に修行僧に向け「皆さんの自由、自我、命をお預かりする。よろしいですね」と念を押すと、修行僧らは奮い立ったように「はい!」と応答した。

 一方、昨年は4人だった遠壽院荒行堂には9人(初行5人、再行3人、四行1人)が入行。戸田伝師は大きな変化が起こっている日本の世相や世界情勢の中で、歴史ある遠壽院行堂で伝統を保ち行ずる意味について説き、修行に励むよう訓示を行った。

2023/11/9 全仏婦第70回記念大会 地球沸騰化に危機感 会長、具体的行動呼びかけ インド日本寺 光明施療院に活動資金贈る 


東伏見会長(左)が中村理事長に写経目録を贈呈した (公社)全日本仏教婦人連盟(全仏婦/東伏見具子会長、花岡眞理子理事長)は10月27日、東京都千代田区の帝国ホテル東京で第70回記念大会を開催した。東伏見会長は「地球沸騰化の時代」の到来に危機感を示し、具体的な行動を呼びかけた。会員や関係団体から160人が集まった。

 はじめに全日本仏教尼僧法団が出仕し、笹川悦導理事長を大導師に法要が営まれ、参加者全員で献花した。続いて裏千家15代で前家元の千玄室氏が「祈りの思い」と題し記念講演。100歳を迎えた千氏だが約40分間立ったまま講演した。

 笹川理事長の法話では「全仏婦は社会や家庭の中に仏教精神を培い、人の気持ちがわかる人間育成を目指されている。多様化の重視された時代にそれぞれの立場でご教化をお願いしたい」と期待した。愛知専門尼僧堂の青山俊董老師の言葉「女性が本気になれば地球は安泰だ」を紹介。育児の重要性に加え、世界の紛争、国内の自死者、児童虐待等の問題を列挙し「この世が生きづらいと思う方が大勢いる。病める心に仏婦の花の種運動のように綺麗な色とりどりの花を咲かせてあげていただきたい」と念じた。

 東伏見会長は会長を引き受けてからの10年で少子化や地方の過疎化が進み「全仏婦でも若い人を育て、継続していくことが課題になる」と問題意識を示した。またノーベル経済学賞に男女の賃金格差の要因等を分析したクラウディア・ゴールディン氏が授賞した話題にも触れ、「お寺における女性の役割は大変大きいと思いますが、さて、どのような賃金格差になっているのか興味があるところです」と言及した。

 全仏婦は「美しい地球を未来のこどもたちに」をスローガンにしているが「地球沸騰化の時代が到来したと言われ、人間が引き起こした気候変動の重大さを認識しなければならない」と指摘。日本政府が「脱炭素」を宣言、関連サイトに具体的行動が示されていることを紹介し「皆様もその内容を広く広く発信していただきたい。次の第80回大会に向け具体的な道筋をつける活動をしなければいけない」と危機感をもって呼びかけた。

 来賓挨拶では全日本仏教会の里雄康意理事長がインドの日本寺が運営する光明施療院への支援を始めとする社会貢献活動に敬意を表した。乾杯の発声は東大寺長老で日本寺竺主の北河原公敬氏。今年は日本寺開山50周年法要を12月に開催する。インドの子どもたちが日本の支援を受けながら一生懸命に過ごしていると述べ、「その姿を見ていると皆様からご支援の有難みを非常に感じている」と感謝した。

 花岡理事長の挨拶では宗教の垣根を越えて結成された全仏婦の歩みや慈悲の心に基づく活動を紹介し、世界平和を願った。日本寺を運営する国際仏教興隆協会の中村康雅理事長に光明施療院の活動資金として写経目録(350万円)を贈呈した。

 閉式に際して、大会実行委員長の本多端子理事が謝意を示し、「全仏婦の信条にある『集いの力』を糧にみなさまと仏法弘通に尽力したい」と抱負を述べた。

2023/11/9 智山派代表会 智積院会館の収益が大幅改善 インバウンド対応奏功


智積院会館の収益改善を説明する芙蓉総長 真言宗智山派(芙蓉良英宗務総長)の第137次定期教区代表会(深澤照生議長)が10月24・25日、京都市東山区の総本山智積院内宗務庁に招集された。昨秋からのコロナ禍行動制限緩和を受けて回復に転じた宿坊智積院会館の収益が、さらに改善。前次代表会では同館の令和4年度一般会計第2次補正予算で坊入宿泊料を2629万円増額し1億1850万円としたが、今回の決算では4822万円増えて1億6672万円となった。

 智積院会館の5年度第1次補正予算では坊入宿泊料をほぼ倍に。1億556万円増額し2億2406万円を計上した。

 宿泊者数の回復基調を受け、智積院から智積院会館に交付している経営助成金(繰出金)も大幅に減額。智積院の4年度一般会計決算では、補正後予算額から3千万円減額し1億円とした。5年度の同補正予算では9千万円から1千円に減額し、智積院からの助成金は事実上「なし」とした。

 智積院の拝観料収入等も回復軌道に乗ったため、4年度の一般会計決算では宗派交付金を補正後予算額から6千万円減額し1億円に。5年度第1次補正予算でも1千万円減額し1億5千万円とした。

 芙蓉総長は施政方針演説で智積院会館について、「近年の光熱費や食材の高騰により、やむを得ず4月1日から宿泊料を値上げし、繁忙期・閑散期(の変動料金)のレート設定も3から6パターンに細分化した」と報告。増加する外国人観光客に対応するため「館内各種案内の多言語化と機器の導入」「インバウンド受け入れ研修会の開催」等の事業も推進したとし、その結果、「令和4年度実績で1・1%、5年4~6月4・7%、7~9月15・7%と大幅に(外国人宿泊者が)と増加した」と説明した。(続きは紙面をご覧ください)

2023/11/9 高幡不動尊 髙尾山薬王院 深大寺 三山合同で密教の祈り 京王電鉄主催


三山合同で般若心経が読誦された(金剛寺大日堂) 東京都日野市の真言宗智山派別格本山高幡不動尊金剛寺の大日堂(杉田純一貫主)で10月26日夕刻から、京王線沿線の古刹、同派大本山髙尾山薬王院(佐藤秀仁貫首)と天台宗深大寺(張堂興昭住職)の三山合同による「密教の祈り」が開催された。真言声明と天台声明が響きわたり、参拝者には三山のお札やお守りが授与された。主催は京王電鉄株式会社(本社/多摩市)。

 高幡不動尊の杉田貫主は同寺がかつて天災で損壊した際に深大寺の僧に勧進の文章を書いてもらった縁起を紐解きつつ、「江戸を過ぎてから天台声明を唱えるのは初めてだと思いますので、大日如来も非常に喜ぶと思います」と歓迎した。

 深大寺の張堂山主は、高幡不動尊との正式な交流は「600年ぶり」と挨拶し、1400年代に文才として知られた長辨(じょうべん)が多摩川沿いの寺社から多くの文章を頼まれ、その一つに高幡不動尊の勧進の文章があると紹介した。天台密教と真言密教の違いを「真言宗は力強さがあり、天台密教は色んな教えと融合させた努力の跡がある」と説明。この日唱える声明は「ほとんど文言が同じ」でありながら、「二つの密教の流れを大いに象徴する旋律になっている」と解説した。

 高幡不動尊と深大寺の僧侶により声明の説明がなされた後、初めにダイナミックで力強い真言声明、続いて優美な旋律の天台声明がお唱えされた。最後に三カ寺合同で般若心経が読誦された。(続きは紙面でご覧ください)

2023/11/2 高知・よしだ造佛所が企画 仏像に触れて感じる触察会 文化・信仰をバリアフリー化


竹井住職から仏像の説明を受けながら仁王像の3Dモデルを触察 高知県香南市のよしだ造佛所羽尾工房で10月5日に視覚障がい者向けの仏像触察会「仏像を〝感じる〟会」が開催され、市内で暮らす視覚障がい者や難病を持つ人が分身ロボットで参加した。手の感触や用材の香り、仏師や僧侶の話、仏像に寄せたポージングなど、視覚以外でイメージを膨らませながら仏像や仏教に親しんだ。

 現在、工房では同市の臨済宗妙心寺派まきでら長谷寺(竹井玄要住職)の仁王像を修理中で、不要となった古い部材や3Dプリンタの模型を使用して触察会を行った。手に触れながら、仏像の形をイメージしたほか、参加者で像のポーズを真似ながら造形への理解を深めた。僧侶と仏師を交えた質疑応答、読経や笛の演奏による儀礼体験、短い時間ながら坐禅も行った。懇親会も開き参加者が交流を深めた。

 参加者した全盲の男性は「普段は基本的に『触らないでください』と言われ、直接触れられない仁王像のパーツの質感と3D模型を合わせて触れることで、頭の中に立体的な造形を再構築することができた」と触察の体験を表現。「仏師から造仏の話、住職から仁王様の話を聞き、宗教観や歴史、造形としての仏像を見る視点が四次元、五次元、六次元…と広がり、仁王像が動き出しそうなエネルギーを感じることができた」と仏像や仏教に触れる楽しさを話した。

 ロービジョンの男性は「全身で仏像と歴史を感じることが出来、素晴らしい体験」と感動を語ると共に、「目が少しずつ不自由になっていくことでだんだん行動範囲が狭まっていたが、今回参加し、素敵な方々とお会いでき、大変有り難く思います」と感謝。晴眼者からも触ることで得られる体験、貴重な交流への感謝や気づき等の感想が寄せられた。

 古典技法で仏像を製作・修理する仏師の吉田安成氏が「障がいの有無・程度に関わらず、お寺や仏像に親しんでほしい」と企画。妻で元看護師の沙織さんも、終末期の患者や全盲の人に接した経験から、お寺に行きづらい人にも仏像や仏教に接してもらう機会を模索していたという。

 触察会の準備を進めるなかで視覚障がい者の就労支援者からも問い合わせがあり、沙織さんは「こうした場を作ることで、もっと社会参画がしやすくなる」と手応えを話した。文化・信仰のバリアフリー化に向けた一歩となる試みとなった。

2023/11/2 仏教伝道文化賞授賞式 本賞・今枝由郎氏〝ブッダは偉かった〟と感慨 奨励賞・藤田一照氏 愉快に仏道を探求したい


受賞挨拶をする今枝氏 (公財)仏教伝道協会(BDK)が仏教精神・文化・学術興隆に貢献した人に贈る第57回仏教伝道文化賞の贈呈式が10月19日、東京都港区の仏教伝道センタービルで行われた。本賞の今枝由郎氏(76・歴史文献学者)、奨励賞の藤田一照氏(69・曹洞宗僧侶)が出席し、関係者が受賞をお祝いした。

 今枝氏はフランス国立科学研究センターでチベット・ブータン歴史文献学の分野で多大な業績を上げ、国内外で最先端の仏教研究に貢献。奨励賞の藤田氏は米国での坐禅指導の経験から、英語を駆使して禅の精神を現代人に伝え、宗派を超えて坐禅を指導している。両者には木村清孝会長から賞状と賞金が贈られた。

 受賞者挨拶で今枝氏は「賞を受けるのはあまり気乗りがしなかった」と率直に語り、その理由を「仏教に携わってはきたが信心ということとは縁がない人間だ」と説明した。日本人として生まれ、両親は毎日熱心に正信偈を唱えていたが、その内容を父に問うと「わからない」と言われ、「自分なりに得心を持ちたいという気持ちで一生を費やしてきた」と研究者の原点を話した。その上で、「ブッダという紀元前5世紀のインドに生きた1人の人間が色々な人に直接説いた言葉を何十年もかけて読んできたが、読み進めるほどに〝この人は偉かったんだな〟という気がしている。そういう面では仏教伝道協会から功績を認めていただいたことは光栄なこと」と感謝した。

受賞挨拶をする藤田氏 藤田氏は「子どもの時に星空を見て、広大な宇宙のなかに何故僕のようなものが存在しているのか。日常の中に大きく口を開いている深淵のような謎を説きたいという気持ちがうまれた」とし、20代後半まで学者の道、その後は「修行的な生き方」をするために曹洞宗僧侶になったと述懐。現在は神奈川県葉山町で縁ある人たちと禅を学び、今年は古希のお祝いもしてもらったが、「これからゆっくりしようと思ったところに奨励賞という〝まだ足りない〟というメッセージがきましたので、ご縁がある方と愉快に仏道を探究していきたい」と抱負を語った。

 祝辞では在東京ブータン王国名誉総領事館の黒木久夫事務局長が澤井一郎総領事のお祝いメッセージを代読。今枝氏がブータンの国立図書館顧問として図書館建設や同国の歴史や文化、国語であるゾンカ語の教育に尽力したことを挙げて謝意を示した。

 曹洞宗宗務庁の渡部卓史人事部長は藤田氏が長年米国で国際布教師として禅の敷衍に努めたほか、語学力を駆使して国内外で禅の精神を広めてきたとし、「次世代を担う仏教指導者としてますますご活躍されること」を期待した。

2023/11/2 全日仏 犯罪被害者支援を考える講演会 「息の長い支援が必要」心のケア専門家 仏教者への期待語る


講演した小西氏 仏教者の犯罪被害者支援の可能性を探る全日本仏教会(全日仏)主催の講演会が10月25日、東京都中央区の築地本願寺で開かれた。犯罪被害者の心のケアにあたる医師で武蔵野大副学長の小西聖子氏が登壇し、虐待を受けた被害者の治療は長期間かかるため、「息の長い支援が必要になる」と述べ、利他を使命とする仏教者の姿勢に期待を寄せた。

 小西氏は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療が専門で、トラウマを乗り越える治療・持続エクスポージャー法を施術できる日本でも数少ない精神科医。2021~23年には刑法の性犯罪規定の見直しを検討した法制審議会の刑事法部会の委員も務めた。

 「仏教者は犯罪被害者支援にどう取り組むべきか―臨床現場からの提言」との題で講演。善し悪しを含めて宗教が関わった犯罪被害者当事者の治療例を挙げて考えるヒントを提示し、僧侶ら参加者約70人が支援の可能性を探った。

 「とても印象深い宗教者の言葉がある」と小西氏。子どもの頃から虐待を受け、宗教施設に逃げ込んだ女性を連れてきた宗教者に、「よくなるまでに長い時間がかかる。困ったことが起きても捨てないでほしい」と求めると、「何ができるか分からないが、人を捨てることはしません」と述べた宗教者との会話を今もはっきり覚えているという。

 回復の過程で何度も自殺未遂があり、「ここで捨てないでほしい」と念を押すと、「逆です。私たちが何度も捨てられている」との返答があり、この宗教者は人を見捨てないのだと確信した。

 小西氏は「宗教者の支援なしでは難しい事例だった」と振り返り、いつでも誰にでも開いている宗教施設だからこそ被害者の異変を捉えることができたと指摘。被害者が安全な空間で宗教活動に参加することでも孤立を防止できると提案した。その上で、担当者が数年で交代する福祉行政の事情もあり、息の長い支援が大切になると強調。「長く寄り添うことができるのは宗教の特長ではないか」と述べた。

 一方で、宗教の関わりが回復の妨げとなった宗教2世の女性の事例も紹介した。留学先のこの宗教の関連大学の寮で性的暴行を受け、PTSDを発症。子どもの頃から怒りを禁じる教えを母に刷り込まれたため、恐怖や怒りの感情が表現できなくなっていた。治療が困難な状態で、「唯一、改善が示せなかった例。こうした宗教は子どもにとっては虐待だ」と力を込めた。

 また、家庭内暴力を受けた女性がカルトに入信しやすいことも報告。暴力が起こるのは自分の責任だと思い込む心理状態にあるため、罪悪感を植え付けるような宗教に同調する傾向があるといい、「そうではない宗教が先に声を掛けてくれたらいいのですが…」と語った。

 全日仏は「死刑制度」を巡り、仏教者の立場などについて2018年から社会・人権審議会(現委員長・株橋隆真氏)で検討を続けている。2021・22年の犯罪被害者週間にあたっては、戸松義晴前理事長と里雄康意理事長が被害者支援の取り組みについて、「あまり行われていない」「不十分であったのではないか」とそれぞれ反省の言葉を述べている。

2023/11/2 尼崎市・日蓮宗広済寺 近松門左衛門没後300年祭 人間国宝が人形で焼香 


人形を巧みに操り焼香する吉田和生氏 『冥途の飛脚』などで知られる芝居作家の近松門左衛門(1653~1724)の没後三百年祭・音楽法要が10月22日午前、墓所のある兵庫県尼崎市の日蓮宗広済寺(石伏叡齋住職)で営まれた。現代にも通じる人情を活写した文豪の遺徳を、多くの人が追善した。

 法号「阿耨院穆矣日一具足居士」が記された位牌を前に読経供養。石伏住職は啓白文で「歌舞伎浄瑠璃の不朽の名作の数々を残す。翁は広済寺改宗開山に尽力、広済寺に度々滞在して戯曲を推敲」と、寺門興隆にも寄与した功績を称えた。人間国宝の文楽人形遣いの吉田和生氏は、人形を用いて焼香。近松研究所を擁する園田学園の齊藤悦一理事長や松本眞市長、地元出身の室井邦彦参議院議員らも参列した。

 田中恵紳宗務総長は「『出世景清』をはじめとする近松門左衛門翁の作品の多くは深い学識と仏教、とりわけ法華経に対する深い造詣に裏付けられており、随所に篤き信仰心を伺うことができます」と祝電を寄せ、日蓮宗にとっても意義深い遠忌法要だとした。

 法要後、本堂右手の国指定史跡「近松巣林子墓」(巣林子は別号)に移動し、参列者は灑水。吉田氏も人形を遣い注いだ。

 石伏住職は「このお寺は明治時代に廃仏毀釈で妙見堂がなくなり、昭和時代には逼塞していた。先代住職が盛り立てたこのお寺で300年祭ができたことが本当に嬉しい。私一人の力でできたことではなく、檀家さんや近所の皆様、尼崎市の力です」と近松から広がった仏縁に感謝した。

 午後は隣接する近松記念館で「大近松祭」として吉田氏・文楽協会による人形浄瑠璃『曽根崎心中』が上演されるなど、盛大に賑わった。

10月

9月

2023/9/28 本願寺派矯正教化連盟 教誨150周年大会開く 生きづらさ救う自然法爾


約130人の教誨師・篤志面接委員僧侶が参加 浄土真宗本願寺派矯正教化連盟は12日、京都市下京区の本山西本願寺で教誨150周年記念大会を開催した。約130人の教誨師・篤志面接委員を務める僧侶が参加。親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年慶讃法要も記念し、阿弥陀堂を参拝した。

 基調講演として、満井秀城本願寺派総合研究所長が「人間の罪業性を考える」として親鸞、蓮如の罪業観を解説した。続く記念講演では、龍谷大学名誉教授で砺波門徒の加藤博史氏(社会福祉学)が「教誨の歩み、課題、挑戦、光源」の題で、矯正教化における宗教の重要性を語った。

 受刑者は大まかに言って、IQが平均(100)以下の人が7割ほどいると指摘。「つまり、知的に色んなことで馬鹿にされ、家族との縁が薄い人が刑事施設に入っている」と解説し、「知的ボーダーの人々も社会的に尊敬される役割を提供される社会になるべき。また、知的なものが人間の評価に直接つながるという社会を変えていく必要がある」と提言した。

 統合失調症や発達障害やパーソナリティ障害と、受刑者の関係もあるとしつつ、そうした障害を抱える人に「内面を見つめようと言ってはいけない」と提示。彼らは子どもの頃に虐待を受けるなどの経験で「柔らかい心に鉄の蓋をしている」。そういう人に内面を見つめろと突きつけるのは酷なことだとした。その上で受刑者は「感謝をされる機会が少ない人」であり、「ありがとう、大変やったね」と、たくさんねぎらいの言葉をかけてあげることが大切だと述べた。実践的には、団体スポーツや陶芸・絵画などの芸術、動植物の世話も受刑者のメンタルヘルス安定に有効だとアドバイスした。

 加藤氏は、そういった受刑者らが抱える「生きづらさ」を「自分が生まれてきたことを喜んでくれ、今ここに生きている自分をまるごと信じてくれる関係の剥奪状態」と定義。そのまるごと信じてくれる関係の「最強盤石なものは阿弥陀さんだと思う」とし、親鸞聖人が88歳で辿り着いた「自然法爾」を「ビートルズじゃないけどレット・イット・ビー、ありのままでいいよ」ということだと解釈。「阿弥陀さんの前で素っ裸になれること」が、真宗教誨師にとっては大切な心がけだとした。

 本願寺派の教誨活動は、明治6年(1873)船橋了要が岐阜監獄で教誨に取り組んだことを嚆矢とする。加藤氏は「本派本願寺が最も熱心に教誨活動に取り組んだ事実」も解説した。

2023/9/28 東寺真言宗 立教開宗1200年法会迫る 10月8~14日 「尽きぬ願いに祈りは続く」


重要文化財『弘法大師行状絵巻』「東寺勅給」(部分・東寺宝物館で特別展示中) 東寺真言宗は10月8~14日、京都市南区の総本山教王護国寺(東寺)で「尽きぬ願いに祈りは続く」をテーマに真言宗立教開宗1200年慶讃大法会を厳修する。

 ▼8日=立教開宗記念法要開白庭儀大曼荼羅供(金堂・午前8時/10時からいけばな草月流家元・勅使河原茜氏による献花式/10時半から小松美羽氏の絵画奉納)東寺勧進写経五重塔奉納法要(午後2時/3時半から㈻東寺学園卒園児の女優・由美かおる氏が奉納演舞)▼9日=歴代天皇奉恩法要庭儀大曼荼羅供(大日堂・午前8時半)鎮守八幡御法楽大般若・護摩供(午後2時)▼10日=立教開宗御法楽・東寺勅給1200年宗祖弘法大師・嵯峨天皇御縁由慶讃法要(金剛峯寺・大覚寺・東寺合同・御影堂・午前9時半)▼11日=鎮護国家御願法要仁王供(中日・講堂・午前8時半/9時半から茶道裏千家家元千宗室氏による献茶式)▼12日=真言七祖・宗祖弘法大師奉恩立教開宗1300年無窮承継宣誓法要(御影堂・午前9時)▼13日=萬霊供養土砂加持法要(青年会・大日堂・午前8時半)▼14日=立教開宗慶讃大法会御法楽結願(御影堂・午前9時/10時からツトムヤマシタ氏による供音式)

 東寺は桓武天皇の平安遷都に際し、王城鎮守のために建立された官寺。鎮護国家を祈る密教寺院としての東寺の歴史は、弘仁14年(823)1月19日に嵯峨天皇から東寺を下賜された弘法大師が密教修行の根本道場「教王護国寺」と定めたことに始まる。

 以後、真言僧を継続的に養成する課試も東寺で実施。大経蔵には「大師請来の舎利・道具・法門聖教」が悉く納められ、「密宗の本寺」としての権威を持つに至った。

 後には東寺とは直接関係のない真言僧も「東寺末葉」「東寺沙門」と名乗るように。「東寺」は特定の寺域を指すのではなく、真言密教を象徴する存在になった。

 こうした歴史を包摂し、弘法大師の願いの原点に回帰する立教開宗慶讃大法会。1200年の時空を超えた平安と令和の祈りがシンクロする歴史的光景が現出しそうだ。

2023/9/28 エスペラント普及会100年 大本天恩郷で記念式典 国際共通語を世界に!


エス語の歌祭。左奥はエスペラントを象徴する緑星旗 サルートン!(やあ!)と旧交を温める声が飛び交う。1923年にエスペラント普及会(EPA)を創立し国際共通語「エスペラント」を採用して100年を迎えた大本(出口紅教主)は16~18日、京都府亀岡市の聖地天恩郷をメイン会場にEPA創立100周年記念行事を開催した。約500人のエスペランティストが世界中から集い、言語を通じた平和の可能性を希求した。

 17日の式典では「EPA創立百周年記念祝詞」が捧げられ、「国と人の境を知らず天が下に鳴り響くなりエスペラントの声」と歌った出口王仁三郎聖師の人類愛善の心が広がった。 

 出口教主は「世界の各地では、いまだ国や民族間の紛争が続いています。平和の言葉エスペラントによる歌祭を通して、いっときも早く恒久平和が世界に訪れますように、皆さまとともに誠の祈りを捧げたい」との意味の挨拶をエス語で話した。今行事のテーマ「Ni faru la mondon plena je Esperanto!」(エスペラントで世界を満たそう)は出口教主が考案した。

 亀岡市の桂川孝裕市長もエス語で歓迎の挨拶。市長がエス語による挨拶をするのは極めて珍しいという。日本エスペラント協会の北川郁子理事長、世界連邦運動協会の木戸寛孝理事長らもエス語で挨拶した。エスペラント青年を代表して、韓国人のキム・ソヌクさんと日本の浅井結さんがエス語を通じて平和に近づく決意を表明した。その後、エス語に訳された愛善歌「陽光」ならびにエスペランティストの愛唱歌「ラ・エスペーロ」が披露された。

 歌祭では、日本全国だけでなく韓国やネパール、ポーランドなど世界各地から計527句のエス語による和歌が献詠され、近年の歌祭では最大規模の盛会に。教主が最も優れた歌を選ぶ「四光明」のうちの1句には、私財を投じてエス語普及の広告をフランス一流紙「ル・モンド」に掲載したことを詠んだ三好鋭郎氏の作品が選ばれた。

 その後、エスペラント考案者のザメンホフ博士のひ孫である医師のマルガレータ氏がフランスからオンラインで講演。「毎日エスペラントを使うことができる大本本部がある亀岡はエスペラント国のモデルです」と称賛した。来日できなかったマルガレータ氏の名代として、息子で同じく医師のピイェル・レバル氏が来場し、参加者を沸かせた。

 出口王仁三郎聖師は、世界中に神意を宣伝するためにエス語の普及を発願し、自身でも学習用辞典を執筆している。言語の障壁を取り除くための大本の活動は高く評価され、世界エスペラント協会(本部=オランダ)は1987年に「出口王仁三郎賞」を設立。エスペラント界のノーベル賞としての権威を持つ。

2023/9/28 ウクライナアニメ映画『ストールンプリンセス』 立正佼成会大聖堂で特別上映


特別上映前に挨拶するコルンスキー大使 ウクライナのアニメ映画『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』の公開(9月22日)に先立って18日、東京・杉並の立正佼成会大聖堂で特別上映会が催された。休日とあって子ども連れ家族など約500人が鑑賞した。

 ロシアによるウクライナ侵攻直後からウクライナ難民・避難民の支援を続けてきた佼成会。7月には学用品バッグ3200個を作製し、ウクライナに向けて発送した。7月20日、コルンスキー在日特命全権大使が佼成会本部を訪れ國富敬二理事長と懇談した際にウクライナアニメの上映が話題になり、特別上映が決まった。

『ストールンプリンセス』の公式HP この映画に惚れ込んで映画配給会社を退社し、配給するために起業したのが粉川なつみさん。日本版吹替えや宣伝費用はクラウドファンディングに賄われた。特別上映に先立ち「ウクライナのアニメが日本で上映されるのは初めて。楽しんで頂ければと思う。公開後の応援もお願いします」と挨拶。コルンスキー大使は「映画は愛に関するもの。どんな困難があっても善は悪に勝つということを教えるアニメです」と紹介した。

 映画は騎士に憧れている役者と王女を中心に展開。互いの素性を知らぬまま出会い、様々な困難に直面し乗り越えていくストーリー。94分。全国で上映中。

2023/9/21 共生特集 「温暖化地獄」が現実化 提起から16年「地球沸騰化」の時代に


 今年の夏の暑さは例年以上だった。涼しいとされる北海道でも30度を超える日が続いた。世界的に見ても山火事が相次ぎ、一部では洪水が発生したりしている。まさに地球温暖化の時代に入ったのだ。16年前、こうした現象を予測した研究者がいた。山本良一・東京大学名誉教授である。著書はズバリ、『温暖化地獄』(ダイヤモンド社)。温暖化について山本氏のほか、4人の僧侶に体験メッセージなどをいただいた。

 こうした地球環境をはじめ、関心の高いSDGs(持続可能な開発目標)、平和構築など「共生特集2023」では宗教界の取り組みを追った。

 本来の自然の恵みに感謝を 山本良一・東京大学名誉教授

山本良一氏 今年7月の世界の平均気温は観測史上最高だった。7月27日、グテーレス国連事務総長は地球温暖化の時代は終わり地球沸騰化の時代が到来したと述べ、世界の平均気温の上昇を産業化前に比べて1・5℃以下に抑制するために直ちに劇的な温室効果ガスの排出削減策を実行するように呼び掛けた。グテーレス氏は“モンスーンの雨に流される子どもたち、炎から逃げる家族、そして灼熱のなかで倒れる労働者”と表現しているが、これは16年前に筆者が公表した『温暖化地獄』の本の中で考えたことと同じである。

 昨年9月には気候転換点(Climate Tipping Points)の新たな研究が公表されている。それによればグリーンランド氷床崩壊、西南極大陸氷床崩壊、熱帯サンゴ礁の枯死、北方永久凍土の突発的融解、ラブラドル海の対流崩壊が既に始まっている。これは人類による資源・エネルギーの大量消費が地球の気候や環境を変えているためでまさに因果応報、自業自得と言わなければならない。

 温暖化地獄から脱出するためには現在の気候危機を招いた原因を一つずつ取り除いていかなければならない。世界は2015年のパリ協定の約束に従って脱炭素社会の実現に向けて取り組みを進めているが、その歩みは遅々としている。気候転換点の玉突き衝突が始まってしまえば人類にはその巨大な変化を制御することは不可能になってしまう。

2007年に刊行された『温暖化地獄』(ダイヤモンド社) そこでポジティブな社会転換の玉突き衝突を人為的に引き起こして気候転換点の玉突き衝突が始まる前に脱炭素社会を実現しようという運動が起きている。気候非常事態や2050年ゼロカーボンシティ宣言をしたり、エコ技術開発、ESG投資、炭素税や排出権取引制度の導入など技術革新やその普及のための社会システムの革新策である。

 しかし最も重要なのは私たち一人ひとりが、この温暖化地獄のただなかにあって本来の自己に覚醒し、本来の自然の恵みに感謝し、それで充足し、社会的連帯経済によって助け合い、謙虚な心で先端科学技術を善用することであろう。それは仏教に基礎を置いた仏教経済にも通ずるものではないか。

※ESG投資 環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の単語の頭文字を取った略語。ESGに配慮した投資。

2023/9/21 共生特集 旭硝子財団 環境危機時計 4分戻る 中米・東欧などは20分進む


「環境危機時計」のイメージ(旭硝子財団の資料より) (公財)旭硝子財団(東京都千代田区)は6日、世界の環境有識者を対象とした「地球環境問題と人類の存続に関するアンケート」の調査結果を発表した。地球環境への危機意識を示す「環境危機時計」は「極めて不安」の9時31分で、昨年より4分針が戻った。3年連続で針が戻ったものの、依然「極めて不安」に分類される。

 同財団では1992年に同アンケートを開始し、今年は日本を含む130カ国1805人から回答を得た。「地球環境時計」は、0時から3時を「殆ど不安はない」、3時から6時を「少し不安」、6時から9時が「かなり不安」、9時から12時を「極めて不安」として、地球環境への認識を表したもの。

 世界各地域の環境危機時刻を見ると、昨年に比べ南米、中東、西欧で10分以上針が戻ったが、メキシコ、中米、カリブ諸国、東欧、旧ソ連で20分以上針が進んだ。

 持続可能な開発目標(SDGs)に関する質問では、17ある目標の内、「気候変動に具体的な対策を」が最も関心が高い結果となった。

 2030年(SDGs期限)までの達成度が最も低いと思う目標は、「貧困をなくそう」「気候変動に具体的な対策を」「人や国の不平等をなくそう」の三つが多かった。一方で、日本・韓国・中国の回答者では「ジェンダー平等を実現しよう」を挙げる回答が多かった。

 同財団が世界25カ国で実施した1万3500人(10~60代)に対して行った生活者の環境危機調査では、危機的だと思う項目第1位が「気候変動」。環境問題の意識や行動が進んでいると思う国は、1位日本、2位アメリカ、3位中国で、日本を選んだ理由は「人々が規律正しい」「優れた技術がある」など。日本は昨年も1位に選ばれている。

2023/9/21 共生特集 大阪大学×東光院 命の世界・仏教徒共同体 防災ワークショップ開催


車座で未来を展望する僧侶や研究者、行政職員ら 大阪大学の先導的学際研究機構「新たな防災」を軸とした命を大切にする未来社会研究部門は7日、豊中市の曹洞宗東光院(村山廣甫住職)でワークショップ「お寺で考える『新たな防災』」を開催した。昨年発足した阪大の同部門の知見と、お寺の持つ地域資源・社会貢献力を組み合わせ、震災やコロナ禍を超えた社会を豊かにする方法を考えた。阪大の研究者や大阪府佛教会の僧侶、豊中市や近隣自治体の職員・社会福祉協議会員など約30人が参加した。

 基調講演は同部門代表の堂目卓生経済学部教授(副学長)。近代において「私たちの社会には有能な人が中心に置かれ、そうでない高齢者や子ども、難病患者、被災者、外国人などは『弱者』として周辺に置かれてきた」が、そのように有能な人が弱者を包摂する社会は「有能な人のようになってください、生産に貢献してください」と要請し「助けられる側になったらもう駄目だ」と人間を追い詰める社会だったことを反省すべきだと提言。

 「助けられる人から、助ける人が受けているものがある」とし、ある災害で支援された人が、別の災害では逆に支援者になることもあるとする。生態系の世界・物理的世界・社会的関係の世界・デジタルの世界・共感や信仰や尊厳などの心の世界から「命の世界」が成立するが、それらの社会が分断されてしまったことを乗り越え、共助の社会を2100年までに目指したいとした。

 村山博雅副住職は、世界仏教徒青年連盟会長として「仏教徒共同体」という世界観を提示。「住職というのは一人で存在しているわけでなく、前の(歴代の)住職、関わった檀信徒や地域の人があってこそ成立する」とし、東光院も行基菩薩が開山した1300年を繋いできた多くの人が共同体を作ったとする。(続きは紙面でご覧ください)

2023/9/21 共生特集 144年ぶりの暑さだった 北海道根室市 細川大憲・真言宗智山派清隆寺副住職

 
 今年の北海道は確かに暑かった。例年根室はしのぎやすいのですが、地元紙によると144年ぶりの暑さだそうです。ということは当時を知る人はいませんので、初めてこの暑さを体験したわけです。7月下旬から8月上旬まで30度を超える日が続きました。

 根室のお盆は東京と同じ7月(網走と函館もそうです)。その頃はまだ過ごしやすくて、お盆が終わってから暑くなった。8月お盆のところも少しありますが、それはもう汗だくでした。

 私は京都に8年ほどいましたが、それと同じぐらい(苦笑)。1回法事をすると白衣と衣がベタベタになりました。とにかく湿気が多く蒸し暑い。

 暑さ対策はまったくしてませんね。この辺では大型扇風機が売り切れになりました。新築の家でもクーラー1台を設置するかどうか。市内街中に8カ寺ありますが、クーラーが付いているお寺は1カ寺もなし。あるお寺がクーラー1台を頼んだら来シーズンだとか。ただ風が6~7㍍吹く日もあるので、その時は過ごしやすい。

 例年8月のお盆の頃は、日中27~28度でも朝晩は17~18度。むしろ寒いぐらいです。それが今夏は夜も23度前後で推移していて、下がらない。この時期(9月1日)は涼しいはずなのに厳しい残暑が続いています。

 地球の資源は一定であるにも関わらず我先にとそれを奪い合ってきた人類の歴史。全ての人、社会が「足るを知る」をそれぞれ日々の生活の中で実践すること。言葉としては単純ですが遠回りでも結局のところそれしかないと思っています。
 
 話題になった斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』でも触れられているように社会が脱成長の方向に舵を切ることがなければ「地球温暖化」問題の解決への道は見えて来ないと思います。

2023/9/21 日本宗教学会パネル 新しい領解文を討論 ケネス田中氏が支持 3氏は批判的観点から検討


右から田中氏、稲城氏、藤丸氏、深水氏 東京都府中市の東京外国語大で8~10日に行われた日本宗教学会学術大会の公式プログラムとして、浄土真宗本願寺派の「新しい『領解文』(浄土真宗のみ教え)」を巡るパネル討論が10日に開かれた。勧学らが総局に取り下げを求めるなど宗門内で異議を唱える動きが広がる中、登壇した同派僧侶のケネス田中・武蔵野大名誉教授が修正の余地を認めつつも、「新しい領解文をだめだとするのは行き過ぎだ」と支持する立場を示した。

 田中氏は、新しい領解文の趣意を示す前文に照らして是非を検討。米国で広く唱和される教章文「ゴールデン・チェーン」と比較しながら、若い人や真宗に親しみのない人に向けられていることを勘案すれば評価できると主張し、支持する立場を取った。

 指摘されている問題点に対する見解も示し、「私の煩悩と仏のさとりは 本来一つゆえ」の箇所については、「批判されて当然。分かりにくいし、教義の根幹に反しているところが明らかにある」と述べた。一方で宗派が出している英訳では、「私の煩悩は、仏のさとりに抱かれている」(田中氏訳)とあり、「このような表現にすれば問題は解消する」とした。

 その上で、問題がある箇所は修正し、「浄土真宗の生活信条」や「私たちの誓い」などの教章文と並んで採用する方向性を提案。「その際、『領解文』と名付けず、別の名前を付けることを勧める」との考えを語った。

 ほかの登壇者の同派僧侶3人は、いずれも批判的観点から発表した。パネルの代表を務めた深水顕真・広島文教大非常勤講師は、新しい領解文では、救われる対象のはずの真宗的凡夫の姿が否定されていると受け取れる構造的な欠陥があるとし、「分かりやすいはずなのに、分かりやすくない」と批判した。

 元同派総合研究所副所長の藤丸智雄・武蔵野大非常勤講師は、社会的実践原理の明示ともされる第3段に着目。自力的な文言の修正可能性にも言及しつつ、「多くの人に共感を得られる表現でいいのだろうか」と疑問を述べ、社会実践に向けた宗教的発信に関して検討した。

 新しい領解文に異論もあって職を辞したという元同派職員の稲城蓮恵氏は新しい領解文が準聖教のように扱われ、法要などで唱和されることに疑義を呈した。戦時消息を不読とする狙いで改正された現在の宗制では、「歴代宗主の撰述」は準聖教から外れ、親鸞聖人や蓮如上人が「信心の鏡」とした典籍を準聖教とする基準が設けられたと指摘。「領解」が不明確な新しい領解文は信心の鏡とならず、準聖教にあたらないと説明し、「唱和するには問題がある」と述べた。

 宗門内に波紋を呼んだ新しい領解文。今年1月の発布以降、有志の団体や住職らによって議論されてきたが、学会で取り上げられるまでに発展した。藤丸氏はその意義について、「公開の場で記録が残ることと、宗教組織がどうあるべきかの問題提起になりうる」と語った。

2023/9/21 豊山派宗会 「収支計算書」使用の是非問う 寺院所得調査めぐり論戦


執務方針を述べる鈴木宗務総長 真言宗豊山派(鈴木常英宗務総長)の第160次宗会通常会(川田興聖議長)が6・7日、東京都文京区の宗務所に招集され、予算関連の議案をはじめ全7議案が可決承認された。代表質問では今後の所得調査実施の際に調査資料として「収支計算書」の使用の是非が問われた。

 執務方針演説では鈴木宗務総長が5月15日に総本山長谷寺(奈良県桜井市)で慶讃法要が盛大裡に執行されたことを報告。記念事業は年度内に結願法要と記録誌の出版で大詰めを迎えるが「完遂するその時まで変わらぬご厚情を」と要請した。

 今後の事業として北米ロサンゼルス・シアトル両居士林への御親化の予定も明らかにした。浅井侃雄管長を名誉団長に、来年4月15日から21日の予定で訪問する。

 人権擁護に関わる新規事業として、部落差別問題をテーマに宗務支所下役員や宗会議員を対象とした講習会を開催するとし「学びを深めていただき、正しい知識を所属の地域に持ち帰りいただくことを目的としている」と説明して参加を呼びかけた。

 代表質問では、佐藤眞隆議員(山形一号)が、8年前に実施された寺院所得調査で、宗教法人の備え付け書類である「収支計算書」が、調査の基礎となる書類として使用されなかったことを踏まえ、今後の調査での使用の是非を質問した。

 細沼秀行財務部長は一定条件で財務書類の作成が免除となるため、宗派が書類作成を義務化した場合に提出しない寺院に対して「どの程度のペナルティを設けるのか」といった課題を指摘。さらに現状の「檀信徒数やその他所得額を計算基礎とした」調査方法から変更になることで「結果が今までと大きく変わる可能性があり、そのことを各寺院が公正なものと受け止めていただけるか。様々な問題が想定される」との懸念を示した。(続きは紙面でご覧ください)

2023/9/21 臨済宗妙心寺派 次期管長に山川宗玄氏


山川次期管長 臨済宗妙心寺派は11日、次期(第36代)管長に岐阜県美濃加茂市の正眼寺住職・正眼寺専門道場師家の山川宗玄氏が決定したと発表した。小倉宗俊管長が来年3月末日をもって退任することを受けてのもの。任期は来年4月1日から2028年3月末日までの4年間。大本山妙心寺の住職も兼ねる。

 山川次期管長は1949年11月生まれ。東京都東久留米市出身、埼玉大学理工学部物理学科卒業。正眼寺専門道場に掛搭し梶浦逸外老大師、谷耕月老大師の下で学んだ。和歌山県日高郡由良町の興國寺住職を経て1994年に正眼寺住職、専門道場師家、正眼短期大学学長。また2003年には「越前大仏」として有名な福井県勝山市清大寺の兼務住職に就任した。著書『禅の知恵に学ぶ』など多数。

2023/9/14 浄土宗開宗850年 来月お待ち受け法要 総大本山が日替わりで執行 2~9日知恩院で8日間


総長、執事長らが揃って参列を歓迎 浄土宗は4日、京都市東山区の宗務庁で川中光敎宗務総長、総大本山執事長らが揃って開宗850年に向けた記者会見を開いた。来年4月の一宗法要の正当を前に、来月2日から9日まで総本山知恩院(同区・伊藤唯眞門主)で8つの総大本山が門主、法主を大導師に特色あるお待ち受け法要を営む。50年前の開宗800年時にもなかった空前のことだという。

 知恩院の貴田善澄執事長は、「お待ち受け法要では、声明を中心とした唄、散華、梵音、錫杖による四箇法要をさせていただく。知恩院だけでなく、増上寺さんの職衆にも参加していただき、舞楽なども取り入れ華やかに務めたい」と抱負。四箇法要は浄土宗でも最高の儀式だが、知恩院では長く途絶えていたという。

 増上寺の小林正道執事長は、お待ち受けでは縁山流声明法要を営むとし、「長い歴史の中で京都と東京の本山で少し違ったところがある。そうして培われた違いのいい意味での面白さ、有り難さを感じていただければ」。850年慶讃事業として建立400年を超える「三解脱門」の大改修にも取り組むとした。門は東京大空襲からも残った同寺のシンボル。

 お待ち受け法要期間中、重文「源智上人造立阿弥陀如来立像」を知恩院御影堂に奉安する。普段は京都国立博物館に寄託されている同像が誰でも拝観できるのは貴重。知恩院第2世の源智上人が法然上人の報恩のため造立したものだ。

 お待ち受け以外にも各山で記念行事が行われる。清浄華院の稲岡正純執事長は11月3日から5日まで開催される、SDGs(持続可能な開発目標)について考えるフェスティバル型イベント「ロータスウィークエンド」の概要を説明。いのちについて考えるワークショップなど多彩な体験を用意する。

 川中総長は「コロナで3年間なかなか大きな事業ができずに困っていたが、やっと動き出すことができた。ぜひお待ち受けには連日お参りに来てほしい」とし、来年の各山での正当法要にも参列を促した。

 850年事業は他に、東京国立博物館などでの「法然と極楽浄土」展や宗門関係学校すべてをオンラインで繋いでの音楽法要などを予定している。

2023/9/14 真宗大谷派初の女性議長 新議長に望月慶子氏


望月議長 真宗大谷派の宗議会(臨時会)が5日、京都市下京区の本山東本願寺内宗務所に招集された。沼秋香議長の辞任に伴う選挙が行われ、望月慶子議員(81)が当選した。女性の議長就任は同派史上初。

 出席議員58票中(7人欠席)、与党・真宗興法議員団の望月議員が44票を獲得。田澤一明議員(野党・同朋社会をめざす会)9票、小林光紀議員(真宗興法議員団)1票、藤原正雄議員(無所属)1票、無効1票、白2票。

 望月新議長は、「大変な責務に身の引き締まる思い。慶讃法要後、大谷派の将来を真剣に考え、宗議会を円滑に進められるようにしていきたい」と抱負。「男女共同参画は18年間で、少しずつ前に進んでいる印象」と話した。

 【望月議長略歴】昭和17年(1942)1月1日生まれ。兵庫県洲本市栄町・浄泉寺衆徒(坊守)。平成17年9月から宗議会議員、現在5期目。第2次里雄内局一部改造(平成27年)、第1次但馬内局(平成28年)、第2次但馬内局一部改造(令和2年)で参務。但馬宗務総長入院加療中の令和3年8月25日から9月22日まで宗務総長臨時代理、但馬総長死去に伴い同年9月23日から10月15日まで同職を務めた。これを受けて成立した現木越内局でも10月21日から翌令和4年3月30日まで参務。

2023/9/14 秋の宗議会 高野山真言宗、浄土宗


 高野山宗会 財務調査指数減少へ 現行制度の限界が明らかに

施政方針を述べる今川総長 高野山真言宗第173次秋季宗会(赤松俊英議長)が6・7両日、和歌山県高野町の総本山金剛峯寺内宗務所に招集された。今川泰伸宗務総長は施政方針演説で、昨年11月から本調査に入った財務調査で宗費算定の基準となる仮指数が決定したと報告。異議申立期間を経て12月に新指数を確定し、来年度から新宗費に移行すると説明した。実施の是非を含めた抜本的な財務調査改革も継続する。

 総指数の現状維持を目標としたが、各宗務支所、各地区の財務調査委員会で「宗費負担の不公平感の是正」を主眼に調整した仮指数を尊重すると中央調査委員会において決定。その結果、総指数減の方向で落ち着いた。新指数による宗費収入は現在の約2億7千万円(全体予算の9%)から数百万円規模の減収になる見込み。昭和27年の制度開始以来、減少に転じたのは初めてと見られる。(続きは紙面でご覧ください)


 浄土宗議会 障がい者の道場入行前進 「持続可能な教団」を展望

源内局最後の宗議会に臨む川中総長 浄土宗は5~8日、第130次会定期宗議会(村上眞孝議長)を京都市東山区の宗務庁に招集した。令和4年度決算、5年度補正予算、詠唱・褒章・教育奨励規程の改正など全9議案を可決した。教育奨励規程について法規特別委員会で若干の文言修正があったほかは原案通りとなった。現議員では最後の宗議会で、来月選挙が行われる。

 川中光敎宗務総長は事務報告で開宗850年となる令和6年まで4カ月を切ったことに触れ「慶讃事業を旗印に、いま一度総大本山と宗とが各々綿密な連携を取る」と就任当初に掲げた公約を再提示。「開宗850年を節目に、そして9年後の宗祖降誕900年を目指し、さらに20年や30年先まで持続可能かつ成長できる教団となることを願っている」とした(850年事業については1面も参照)。SDGs(持続可能な開発目標)の達成については庁内プロジェクトチームでも企画検討しているとした。(続きは紙面でご覧ください)

2023/9/14 千葉県南房総市 日蓮宗妙福寺 トレーラーハウス宿坊体験記 自然環境活かした新たな試み 地方寺院に可能性広がる


トレーラーハウスを使った宿泊設備 千葉県南房総市の日蓮宗妙福寺(早島英観住職)の境内にトレーラーハウスを使用した宿坊「自在堂」が誕生し、今月1日にグランドオープンした。取材を兼ねて宿泊客のモニターとして記者が一泊。新しいタイプの宿坊を体験した。

 妙福寺は日蓮聖人が千葉から鎌倉へ赴く途中、船を待つ間に布教をおこなったという南無谷(なむや)海岸から、徒歩5分程の場所にある古刹。寺の前を通る街道、内房なぎさラインを挟んだ海側の境内地に「自在堂」はある。

 宿泊する部屋は、トレーラーハウスを使った職人のハンドメイドによる木製のタイニーハウス。優しい木のぬくもりを感じ、海が間近にある環境とも調和する造りになっている。

 当日は30度を超す真夏日だったが、実際に部屋で過ごしてみると、とにかく快適。シャワー・温水洗浄トイレ・エアコン・キッチンを完備しており、周囲の環境を味わいながら、小さいながらも機能美を追求した〝最小の贅沢〟が楽しめる。

 しかし、一番の贅沢は目の前の海だろう。人通りはあまり多くなく、ほぼプライベートビーチだ。特に夕日が美しい。浜辺にチェアを置いて日が暮れるまで眺めた。最後まで日が沈むのを見るのは、いつぐらい振りだろうか。日が落ちた頃には、なんだか心が軽くなったように感じた。

晴れていれば富士山も見える南無谷海岸からの海 「自在堂」のコンセプトは、「〝私〟をほどき、澄ます」。自分が在る、自分をみつけるという意味で仏教用語の自在を名前につけたという。お寺ならではのプログラムも用意し、マインドフルネス瞑想や法話、朝勤の参加もできる。

 運営会社は、映像やWEB制作等を行う株式会社百人組。社長の松村和順氏は仕事を通じて仏教の教えやお寺の持つ可能性に触れ、寺ヨガや僧侶を講師にした大手企業の研修など、寺院や仏教と社会をつなげる事業を立ち上げてきた。

 収入よりも可能性

 宿坊事業のファイナンスや予約システム、トレーラーハウスの設備は百人組が担当し、導入するためのコストを軽減。とはいえ、敷地の整備など、できることは自分たちで行う。取材した日も早島住職と松村氏が自ら看板建てに汗を流していた。

看板を自ら建てる早島住職(右)と松村氏 高齢化や過疎が地方寺院の経営に深刻な影響を与えている中、この宿坊事業も対策の一手ではあるが、早島住職は「収入の面よりも、地方のお寺の可能性を発掘したいという思い。お寺は儀式や葬式を行う場所というイメージから、心を癒して日常に戻っていく場所というイメージを持ってもらいたい」と話す。

 宿坊は、お寺の関係人口を増やすことにつながる。松村氏によると、応援したくなるお寺、馴染みのあるお寺を作ってもらうのも狙いの一つだという。

 「御朱印でお寺に来てくれる人もいますが、なかなか深くエンゲージできない。でも、一泊してもらえれば、この場所に思いが刻まれる。この地域に住んでいない人にとっても、何かの節目や人生の大事な場面で訪れたくなるような、生老病死のライフステージに伴走できるお寺になっていきたい」と早島住職。

 翌朝、少し遅れて朝勤に参加した。すでに読経を始めていた住職の後ろ姿から、人知れず毎朝仏さまに給仕する様子が窺えた。願文の中で自分の名前が呼ばれた時、不意に人生を励ましてもらったような気持ちになった。お寺でしか味わえない、良い朝だった。

 自在堂は、妙福寺の他にも千葉県勝浦市の妙海寺(日蓮宗)、栃木県宇都宮市の光琳寺(浄土宗)でも開業準備を進めている。それぞれのロケーション、寺院・住職によってまた特徴も出てくるだろう。今後の展開に注目だ。

2023/9/7 大谷派三条別院パワハラ問題 先輩職員が大声で威圧指導 被害者が退職する構図も 相談体制と被害者救済に課題


ハラスメント防止に取り組む東本願寺 真宗大谷派宗務所(京都市下京区・本山東本願寺)のハラスメント防止委員会は6月末頃、被害の訴えを受けて確認を進めていた新潟県三条市・三条別院でのパワーハラスメントの事実を認め、加害職員への指導を行ったという。当時の三条別院輪番の管理責任も問われる異例の事態ともなったようだ。複数の宗内関係者は、パワハラ案件がここ数年で繰り返し発生している現状を受け、抜本的な組織改革を切望。では、宗派のパワハラ対応とその現場はどうなっているのだろうか。

 ハラスメント防止委員会は、三条別院の40代男性職員が数年にわたって複数の後輩職員に大声を出すなど威圧的な指導を続けていたことを、関係者への聞き取りなどから確認。加害職員には、個別研修の受講指導がなされたという。

 宗務所総務部の海(かい)雄二次長に事実確認を行うと、「ハラスメントの個別案件の判定の有無について、(宗派では)一切公表していない。個人のプライバシーがあり、当事者にしか伝えない」と回答。その上で、「ハラスメント防止委員会の主な役割は、当事者間の関係改善の斡旋にある」と説明した。

 大谷派は07年にセクシャルハラスメント防止規程を制定。14年にパワーハラスメント、18年にマタニティハラスメントを加えた。07年の規程制定と同時に宗務所内にハラスメント防止委員会を設置。これまでは総務部担当参務、総務部長、解放運動推進本部長、同事務部長、組織部長の5人で構成されていたが、6月30日から新たに宗内外の学識経験者(若干人)を加えることになった。

 上役からの暴言や威圧などに苦しんでいる人は、最初に窓口に相談。宗務所内の相談員か外部機関(21世紀職業財団・弁護士事務所)の専任担当者に、電話・手紙・メールなどでいつでも連絡できるという。相談員には守秘義務が課される。(続きは紙面でご覧ください)

2023/9/7 両本山が一つに 金沢・尾山御坊跡で東西本願寺合同法要


常灯明からランタンに分灯された(8月31日、西本願寺) 北國新聞社・浄土真宗本願寺派・真宗大谷派が共催する東西本願寺合同法要「いのちのつどい」が2日、石川県金沢市の金沢城公園で営まれた。親鸞聖人御誕生850年・立教開宗800年と、北國新聞の創刊130年を記念した事業。約1千人が参列。池田行信本願寺派総長、木越渉大谷派宗務総長も参列し盛大に慶讃した。

 法要に先立ち、8月31日には京都の東西本願寺から分灯が行われた。西本願寺の「常灯明」は24時間365日決して消えることなく燃え続けている「不滅の法灯」。法灯を入れたランタンを預かった日谷照應宗会議員(石川県七尾市徳照寺住職)は「ご本山の火を地方に持っていくのはなかなかできることではない。今回の会場はかつて(戦国時代)尾山御坊があった場所で、門徒はそこを拠点に100年間、大名ではなく自分たちで国を治めていた『百姓の持ちたる国』の誇りがあった。そういったことを石川の人に改めて感じてほしい」と感慨を深くし、「今は西だとか東だとかいった時代ではないので、これからも一緒に色々なことをやっていきたい」と語った。

 東本願寺の常夜灯からも同様に分灯され、2つの法灯は金沢市の両別院に運ばれ、法要当日に会場で2つを合わせて1本のロウソクに点火した。本願寺が、かつては1つだったことを示すものとなった。舞楽や仏教讃歌、民踊と念仏踊りなどが奉納された。翌3日には稚児行列があり、両別院では慶讃法要が営まれた。

 北國新聞社は1998年、蓮如上人500回遠忌の東西合同法要「いのちのふるさとフェスティバル」も共催している。

2023/9/7 関東大震災100年 慰霊は使命 世代を超えて 仏教者が思いを継承


東京都慰霊堂 池上本門寺出仕 行動する一歩を

震災の記憶と教訓を話す菅野貫首 関東大震災から100年の節目となった1日、東京都墨田区の横網町公園内の東京都慰霊堂で秋季慰霊大法要が営まれた。秋篠宮ご夫妻の臨席のもと、日蓮宗大本山の菅野日彰貫首が大導師を務め、東京都仏教連合会各地区代表が随喜し、10万人を超える犠牲者を追悼した。主催は(公財)東京都慰霊協会。

 追悼の辞は小池百合子都知事に代わり中村倫治副都知事が代読。「震災と、その極度の混乱の中で、犠牲となられたすべての方々のご無念と、ご遺族の皆さまの癒されることのない深い悲しみ」に痛惜の念を示し、気候変動や不安定な国際情勢といった難局を乗り越え「安心・安全で平和な東京を持続可能なものとして次世代に引き継ぐ」と表明した。

 指名焼香は秋篠宮ご夫妻が行い、主催者、都や区の代表、遺族代表、全日本仏教会、東京都仏教連合会らが続いた。

 法話では菅野貫首が自坊のある台東区谷中の寺院の先輩住職から語り受けたエピソードを紹介。関東大震災や東京大空襲の際に被害の少なかった谷中の寺院が、被災者を受け入れ、井戸水や物資を提供して救助にあたったという。加えて「災害の90%は人災。天災は10%に過ぎない」という「大先輩の上人から託された言葉」をあげ、地球温暖化による自然災害や世界各地で起きる戦争を「人災」と指摘し、「地球上に生きる全てのものが安らかに生きるため、一個人が小さくとも何か行動する第一歩を踏み出す。それこそが亡くなられた方への最大の供養であり、地球を救う一歩である」と説いた。

 法要後には一般参拝者による焼香の長い列ができた。荒川区から毎年参拝している83歳の女性は、母が姉と妹を震災で亡くし慰霊を続けていたという。「震災のことを母は良く話していました。仲の良い姉妹でしたが、震災の時はばらばらに逃げ、家のあった場所に戻ると父と母はいたが、姉妹は帰ってこなかったそうです。去年、私の姉が亡くなり今年は一人で来ましたが、慰霊は母から受け継いだ私の使命」と話した。

 東京都慰霊協会理事で本所仏教会の新美昌道氏(曹洞宗福巖寺)は「亡くなった方の無念さや痛みを忘れることなく、思いを引き継いできた。震災後にいち早く東京の仏教団が供養を始めたことが今日までつながっている」と先人から繋ぐ慰霊の意義を深めた。

本堂で慰霊、境内で防災 鎌倉本覚寺で大法会 教訓を現代に伝える

発災時刻を知らせる鐘撞を行う松尾崇・鎌倉市長 多くの犠牲者を出した関東大震災から今年で100年を迎え、日蓮宗神奈川県第二部管区の鎌倉組寺院が1日、神奈川県鎌倉市の本山本覚寺(永倉日侃貫首)で「関東大震災追悼慰霊大法会」を執り行った。市の総合防災課などがブースを出展する防災パークも開催し、慰霊と防災の観点から次世代に災害の教訓を伝える機会とした。

 法要は片野玄斉・収玄寺住職が導師を務めた。鎌倉市長の松尾崇氏が地震の発災時刻午前11時58分を知らせる梵鐘を撞き、黙祷が捧げられた。

 本覚寺の永倉秀行執事長によると、会場となった本堂は大正12年4月に完成し、震災の前日まで内装工事を行っていたという。震災により当時本堂以外の庫裡・鐘楼堂などは倒壊したが、本堂は傾いたのみで残り、平成28年に耐震基準に合わせた改修を行った。

 震災により当時の鎌倉町では412人が亡くなった。重傷者は341人、4183戸の約3分の2が倒壊・半壊したとされる。松尾市長は「犠牲となられた方々、ご家族、ご友人の苦しみ悲しみをしっかりと受け止めることが、同じ苦しみや悲しみを繰り返さないように防災意識を高める上で重要と思う」と述べた。

 実行委員長の平井智親・安国論寺住職は、震災を耐えた本堂で法要できたことに、「言わば、この本堂は震災を生き延びた〝生き証人〟。そのような場所で追悼慰霊法要を執り行えたことは大変ありがたい」と感謝。

 慰霊追悼法要での供養によって、「過去の悲しい出来事を繰り返さないように防災を考える。慰霊法要と防災を合わせて、初めて防災の大切さを理解できます。法要を契機に防災を真剣に考え、どうか実行に移していただきたい」と語りかけた。

2023/9/7 寺院所蔵の幽霊絵画展 会場では供養の法要も 骸骨2体の絵、戦国武将の親子か


画幅を中心に約30点が並んだ 寺院が所蔵する画幅を中心に展観する幽霊画展が8月21日から9月2日まで、東京都中央区の東日本橋オリモビルで開かれた。

 曹洞宗禅文化の会(田中機一会長)の会員寺院などが所蔵する作品約30点(展示替え含む)が並んだ。地獄絵巻や幽霊が描かれた鉄扇、仕掛け絵が施された四谷怪談の錦絵なども展示された。

 煙管をふかす大人と正座した子どもの骸骨2体が向かい合って会話しているように見える一枚があった。山口県長門市の同宗大寧寺に住持した痴絶伝心(1648~1708)の讃があり、江戸前期の作と思われる。

 同寺は、大寧寺の変(1551年)で自害した西国随一の戦国大名・大内義隆の墓所があることで知られるが、この政変では嫡男義尊も殺害された。「この骸骨2人はきっと義隆と義尊の親子ではないか」と会員の僧侶は推測している。

 「霊は存在すると思います」と話すのは朗読家で俳優の蓑毛かおりさん。8月29日に訪れた。幼少の頃に亡くした姉が今も近くで見守ってくれていると信じている。「幽霊画の多くが不気味なのは、恨みを残したまま亡くなった姿を描いているから。その悲しさを分かってあげられれば、穏やかな顔になるはず」と優しい眼差しを向けた。

 展覧会を主催した芸術文化継承機構(東京都中央区)の関隆代表理事は「異常な暑さが続く今年の夏。暑気払いになれば」と企画。「妖怪などを題材とした現代アニメの源流を感じてもらえたら」と話した。

 会場では度々、供養の法要が執り行われた。

8月

2023/8/31 関東大震災100年 最初期から仏教者の祈り 


 綱脇龍妙 被災状況を記録

『被服廠跡』に掲載されている震災四十九日と思われる写真。「被服廠に於ける白骨の山」の解説がある 9月1日は関東大震災から100年。東京・横網町公園(墨田区)の東京都慰霊堂は東京大空襲の犠牲者の遺骨も安置するが、もともとは関東大震災の被災者の遺骨を納めるために建設された施設である。東京や神奈川など関東でおよそ10万5千人の死者・行方不明者をだした。寺院も被災したが、残ったお寺は被災者支援や回向にあたった。火葬を託された寺院もある。そうした寺院などを紹介する。(別記事で冝雲寺、龍華寺、宝生寺)

 ハンセン病救済に尽力した日蓮宗僧侶の綱脇龍妙(1876~1970)は震災当日、山梨県身延町の深敬園にいた。「正午すこし前でした。突然、ごう音と共に部屋が東西に激しく揺れだしました。今にも天井が落ちんばかりです。はうようにして戸外へのがれると、大地が激しく波打っています。(略)やっとの思いで本館事務所にはいり、ごう音と共に数分ごとに襲ってくる激震に耐えておりました」。47歳の震災体験を、93歳の時に回想したものだ(『我深く汝等を敬う―綱脇龍妙自伝』私家版)。

 およそ1週間後には都内の被災した日蓮宗寺院を巡った。「常圓寺(新宿)を見舞うと、及川真能老僧正が、はっぴ姿に縄の帯を締め、門前で大勢の被災者の世話をしておられます。思わず頭のさがるお姿でした」と支援状況を記録している。

 焼け落ちた深川浄心寺の本堂跡で回向してから本所被服廠跡に向かった。「そのあたりに、はじめは石ころがゴロゴロころがっているかと思ったのが、ことごとく人の死体であるのにがく然と肝を冷やしました」と描写する。被災地を訪ねた仏教者・宗教者はほかにもいたであろう。

 『被服廠跡』の記述

 大震災発生から東京都慰霊堂建設までの経緯を詳細に記録した『被服廠跡』(財団法人東京震災記念事業協議会清算事務所、1932年刊)には、震災直後について次のように記す。

 「その翌朝のこと、被服廠跡の小高い處に僧侶一人、累々たる数万の屍に冥福を祈って、静かに読経を続けていた。日蓮宗の僧であったと云う。これこそ、此の大災害の初めての回向であったろう」

 震災から四十九日の追悼式は10月19日、被服廠跡で執り行われた。その時と思われる写真には、白骨の前で読経する僧侶の後ろ姿が写っている。僧侶たちは震災最初期から回向等に関わっていたのである。

 時代がくだって、阪神淡路大震災では鵯越斎場に僧侶が常駐してボランティアで読経。東日本大震災では都内の瑞江葬儀所と臨海斎場に運ばれてきた遺体の火葬にあたり、超宗派の宗教者が参じて祈りを捧げた。

 慰霊の象徴「蔵魄塔」 江東区平野・浄心寺 境内で約3000体を火葬

江東区最大の震災供養塔とされる「蔵魄塔」と外山寛穂住職 東京都江東区平野の日蓮宗浄心寺(外山寛穂住職)がある深川地域でも多くの犠牲が出た。同寺の境内が臨時の火葬場に当てられ、約3000体の遺体が荼毘に付された。発災から約1カ月後の10月5日、当時の深川区主催により同寺焼跡で仏教各宗派連合による「大震災横死者追弔大法会」が営まれたという。

 震災から2年後の大正14年(1925)、犠牲者の遺灰を納めた供養塔である「蔵魄塔」(ぞうはくとう)が建立された。当時では珍しい半球ドーム型の白コンクリート造りのモニュメントで、悲しみにくれる女性が墳墓を抱きしめる姿が彫刻されている。

 製作者の日名子実三は日本サッカー協会の前身である大日本蹴球協会のシンボル「八咫烏」をデザインし、現在も日本代表のエンブレムに採用されている著名な作家だ。当時、白い裸婦像は寺院に馴染まないという声もあった。外山住職にも同じことを言う人がいたが、裸婦像に子を守る母親の姿を重ね、「我々は皆、女性から生まれ、両親から命をつないで今を生きているのではないか」と話すと、見る目が変わり「手を合わせてくれた」という。

 現在、遺灰は墨田区横網の東京都慰霊堂に移り、蔵魄塔も移築する話があったが、地域の震災慰霊の象徴として同寺に残された。毎年発災した9月1日に法要を営み、昨年は深川仏教会とともに百回忌を執り行った。

 外山住職は今年92歳。震災は経験していないが、中学生の時、東京大空襲を経験した。どちらも火災で街が焼け、川で亡くなる人が多かった。空襲後の火災では父の震災の経験から、川ではなく塔婆を片付けた墓地に避難するなどして逃れた。

 「災いは突然やってくる。しかし、何が起こっても一秒でも良いから、まず冷静になること。必ず助かる道はあるはずです。それを見つける智慧を先人から受け継いでいる」と外山住職はいう。

 「普段から心や備えを整えておくこと。それが一秒の心の余裕を作ると思うのです」。日常から心を養う。それを伝えるのは、寺院の役割の一つかもしれない。

2023/8/31 関東大震災100年 冝雲寺、龍華寺、宝生寺 各寺の祈りをたどる


 江東区白河・冝雲寺「大震災殃死者紀念碑」 134人の名前刻む 三回忌に建立

震災3回忌に建立された「大震災殃死者紀念碑」(右)。左は大震災から22年後の東京大空襲犠牲者を追悼する「戦災供養塔」  「大震災殃死者紀念碑」は江東区白河にある臨済宗妙心寺派冝雲寺の境内にある関東大震災犠牲者の供養碑である。見慣れない「殃」はわざわいや災難という意味だ。裏側には周辺で犠牲となった134人の名前と名前不明者「外20名」を刻む。建立は2年後の大正14年(1925)。おそらく三回忌にあたっての建立と思われる。

 西村徳城住職によると、毎年震災日に法要を勤めているが、百回忌の昨年はコロナ禍ながら供花や供物を増やして懇ろに執り行った。冝雲寺は江戸時代の画家・英一蝶(はなぶさ・いっちょう)ゆかりの寺で、「一蝶寺」とも呼ばれ、一般の参拝者が少なくない。そうした人たちが碑を見つけて手を合わせていくという。(続きは紙面でご覧ください)

 横浜市金沢区・龍華寺「供養塔」 震災伝える日記発見 直後にお寺から〝一個のおむすび〟

当時の篤志家によって建立された供養塔と地蔵立像 神奈川県横浜市金沢区の真言宗御室派龍華寺(和田弘雅住職)は関東大震災から100年を迎える9月1日に、境内に建つ「震災殃死漂流者供養塔」前で震災犠牲者慰霊法要を厳修するほか、新たに見つかった震災直後の状況を記録した日記『大正大震災諸控帳』を紹介する講演会を行う。

 震災当時、この地に在住していた山本良吉が、震災後の避難生活や被害の詳細などを記録。そこには家屋が倒壊し、龍華寺の竹やぶに一時避難し、その時に「一食に一個のむすびを龍華寺様より下されたる事」への感謝の思いも綴られている。こうした内容に和田大雅名誉住職は「当時の檀家とお寺の絆の強さがわかる」と感慨を深める。この他にも、地域の被害状況や配給の内容、青年消防団が自警団をつくり「鮮人さわぎ」に警戒していたことも記している。

 龍華寺がある洲崎地域は家屋の倒壊件数が多く、同寺の本堂も倒壊。町内で15人が犠牲になったほか、近くの海岸には多数の遺体が漂着し、龍華寺の供養塔はその無縁仏の遺体を弔うために建立された。

 供養塔隣の石碑「建碑之由来」には海岸に40有余の遺体が漂着したが、震災直後に海岸に一旦埋葬されたが、実業家・大橋新太郎の妻である須磨子がこれに心を痛め、翌年7月22日に改めて荼毘に付し、龍華寺で香や花を手向けて供養したことが記されている。

 13回忌にあたる昭和10年に供養塔が建立され、17回忌に地蔵立像も奉納されたという。(続きは紙面でご覧ください)

 横浜市南区・宝生寺 1971年建立 韓国人慰霊碑 震災翌年から続く慰霊祭

1971年に建立された関東大震災韓国人慰霊碑には花が手向けられてい 関東大震災の直後に「井戸に毒を流した」「放火した」などの流言飛語により、多くの朝鮮人や中国人が自警団等によって虐殺された。神奈川県横浜市南区の高野山真言宗宝生寺(佐伯真魚住職)の境内には「関東大震災韓国人慰霊碑」が建ち、毎年9月1日に慰霊法要が営まれている。

 横浜市でも多くの朝鮮人が犠牲となり、当地に暮らす李誠七氏が供養してくれる寺院を探すなか、宝生寺の佐伯妙智住職(当時)がその願いを受け供養をし、震災翌年から慰霊法要を執り行ってきたという。

 慰霊碑の碑文には、「関東大震災に因る直接又は間接の被害を受けて空しく異国の露と消えたこれらの怨霊は永いこと忘れ去られていたが第二次大戦の終結後 社会事業家で横浜在住の故李誠七氏の努力と当時の住職故佐伯妙智先生の好意によりこの地に鎮魂以来毎年九月壹日を期して民團神奈川懸地方本部主催で慰霊祭を挙行して来た」とその歴史を伝える。

 神奈川県の同胞有志の浄財と寄付、佐伯眞光前住職の土地提供によって1971年に建立された慰霊碑には「永遠に関東大震災による韓国人怨霊の冥福を祈るものである」と刻まれている。(続きは紙面でご覧ください)

2023/8/31 奈良6寺社の共通拝観券発売 世界遺産登録25年記念し 都内で魅力アピール


都内で魅力を伝えた6寺社の住職ら 世界遺産「古都奈良の文化財」を構成する6寺社の共通拝観券が22日、初めて発売された。6寺社が同日、東京都千代田区の都道府県会館で記者発表し、魅力をアピールした。

 6寺社はいずれも奈良市内の華厳宗大本山東大寺、法相宗大本山興福寺、同宗大本山薬師寺、律宗総本山唐招提寺、真言律宗元興寺、春日大社。世界遺産登録から今年で25年を迎えるのを記念した事業の一環で、奈良市観光協会が発行した。課題となっている観光客の滞在時間や消費額の増加に期待をかける。
拝観は各寺社1回ずつ。特別御朱印(別途御朱印料が必要)などの特典がある。1冊5千円(限定2万冊)で有効期限は来年3月31日まで。奈良市内の観光案内所や東京・新橋のアンテナショップ「奈良まほろば館」で販売している。

 記念事業ではほかに、11月3~25日の金・土曜日に夜間特別参拝を実施。10月15日から記念ラベルを貼った酒を発売する。シンポジウムも行われる予定だ。

 この日、各寺社がそれぞれ魅力をアピールし、東大寺の橋村公英別当は、今年がちょうど開山良弁僧正の1250年御遠忌にあたることにも触れつつ、「文化は人や地域とともに継承される。この機会に奈良に訪れていただきたい」と話した。

 約120年ぶりとなる五重塔の修復が今夏に始まった興福寺の夛川良俊副貫首は同寺の由緒を振り返り、「拝観して歴史を感じていただければ」と述べた。約110年ぶりの修復が完了し、延期していた落慶法要を今年営んだ薬師寺の加藤朝胤管主は修復やコロナ禍で参拝者が激減したと明かし、「来るたびに新しい発見がある」と再訪を呼び掛けた。

 唐招提寺の松浦俊昭副執事長は、境内に奈良時代と同じ風景が撮影できるスポットがあると紹介。「共結来縁」との開山鑑真和上の言葉を挙げ、「奈良のいろいろなところで結縁していただきたい」と語った。元興寺の辻村泰善住職は、真言律宗総本山西大寺(奈良市)や高野山真言宗別格本山大安寺(同)といった歴史ある寺がほかにも多くあると伝え、「京都とは違う奈良を感じてほしい」と話した。

2023/8/24 仏教者の使命と責任 創刊3000号を迎えて 山崎龍明・仏教タイムス社社長


創刊1000号の紙面(1973年8月18日)。原爆投下後の広島で創刊されたことを強調している 創刊3000号。あらためて創刊に携わった先人のご労苦を思わずにはおられません。

 特に1946年(昭和21)という状況がいかなるものであったかということに思いを致すとき言葉に絶します。しかし、なんとか今日まで刊行できたのは多くの支援者の方々と、なによりも購読して下さる方々のおかげとしかいいようがありません。
 
 翻って考えると、特に昨今の紙媒体の衰退は目を覆うものがあります。SNSが中心となっている状況の中でなお「紙面」の「力量」を世に提示しようとする営為は、決して軽微なものではないと私は考えています。そんなときご批判や賛同の声を戴くと力が湧きます。私たちの歩みは微々たるものであっても、発信すべきことを的確に発信していくことの必要性を肝に銘じています。 

 周知のごとく大手一般紙をはじめ「新聞」が低迷しているといわれる中で、ブロック紙の北海道新聞、中日新聞、西日本新聞を始めとして地方紙は健闘しています。私は地方出張の際に必ず購入しています。ここで一々紙名を挙げるのは避けますが、そこでは政権党が忌避しているような、大事な記事に触れることも再三です。

 私は、弊紙は各宗教教団にはみられない、宗教一般から、仏教の本質に基づく報道記事等もあり、それが弊紙の特徴の一つでもあると自負しています。なによりも本紙が忘れてはならないことは、弊紙創刊の経緯です。弊紙500号(1962年6月5日号)に主幹(創刊者)常光浩然師は「広島で昭和21年7月に創刊せられてから、本号はまさに五百号に達した(中略)。あの原子バク弾によって、広島市はこの世ながらの地獄と化した。あの惨状はいかなる言葉をもっても、これを表現することはできない。このとき宗教家の奮起をうながし、人心安定のために立ち上がったのが本紙である」と記しています。極端な物資不足による「紙」の調達と印刷機類の装備、その労苦がしのばれます。しかし、その情熱と仏教者としての使命感にはあらためて驚かされます。私たちもその志を踏襲したいと思います。

 1951年(昭和26)に拠点を東京に移したことにもその気迫が感じられます。1000号(1973年8月18日号)の社説は「不断に進めたい原水禁運動」を掲げ、これは「全仏教徒の任務であることはいうまでもない」と結んでいます。爾来およそ50年、不断に「非核」が言われながら数カ国の「核保有国」と、その国に反対できない国々の「核抑止論」が幅を利かせています。悲泣すべきことです。

 この国でも去る5月、G7広島サミットにおいて広島出身の首相が「核抑止論」を説き、世界の顰蹙を買いました。今年は戦後78年。今なお「核」にしがみついているのが保有国とその賛同国です。弊紙創刊のスタンス「非核・非戦」という不動の命題は残虐な「原子爆ダン」(常光師)投下によってもたらされてのものです。百の「非核」会議より、一歩半歩の「廃止」の歩みが大切なのです。「広島」の惨状を隠し続けてきたアメリカでも、最近ある州では「被爆」が問題となり、「展示」を開催するという報道も見られます。

 弊紙は希望をもってこのことにこだわりたいと思います。「広島・長崎」の惨禍を深く心に刻み「核」使用の非人道性を断罪していきたいと思います。何故ならそれが、全人類の永久平和に直結する道であり仏祖方に報いる方途だと信じているからです。

 平和を論ずる人を「理想」主義者といって軽蔑する人がいますが、それは誤りだと思います。「理想を持たない人間は堕落する」といったのは教育者高楠順次郎先生でした。理想である戦争の絶滅を願って一歩ずつ永遠に歩み続けることが、人間の道だと思いますがいかがでしょうか。

 今後も弊紙に、なにとぞご支援とご教導をお願い致します。

2023/8/24 台風7号被害 福知山市浄仙寺 裏山崩れ墓地を直撃


掘り起こし作業が進む浄仙寺墓地(18日) 15日に紀伊半島から近畿地方に上陸した台風7号は暴風と豪雨でお盆真っ最中の各地のお寺にも甚大な影響を及ぼした。

 最大3時間降水量が110㍉を記録した京都府福知山市。大江町の浄土宗浄仙寺では、裏山の崖が崩れ墓地に土砂が大量に流入。100基ある墓石のうち30基ほどがなぎ倒され、折れた木の枝や石塊は参道の下まで押し出された。18日現在、急ピッチで土砂撤去、墓石の掘り起こしに追われている。

 古寺忠夫住職(80)は「14日の夜11時頃に就寝したのですが、日付が変わる頃から雨の勢いが凄まじくなり、どんどん押し流されていくのをどうすることもなく見るほかありませんでした。外に出ることすらできないほどです」と振り返る。「住職になってから、こんな災害は初めてのこと。自然災害は本当に恐ろしい。檀家さんには申し訳ないことをしました」と語る。庫裏・本堂にはギリギリのところで土砂の流入はなく、人的被害もなかったという。

 早朝、やや雨がおさまった時に墓のひどい有様を観てショックを受けた古寺住職。そんな中「何も言わなくてもボランティアの人がたくさん集まってくれて、お手伝いをしてくださるのは本当にありがたい」と手を合わせた。

 浄仙寺の近隣の高野山真言宗清園寺でも同じく裏山が崩れたことにより墓地に土砂が流入。作業員が撤去にあたっていた。

 このほか台風7号では、三重県尾鷲市の浄土宗念仏寺で樹齢約200年の松の巨木が倒れた被害、兵庫県豊岡市の臨済宗大徳寺派願成寺の裏山が崩落したことにより土砂が本堂の壁を突き破って流入した被害などが報告されている。

2023/8/24 岩手県大槌町曹洞宗吉祥寺 子どもたちが経石を清掃 250年前の思いに触れる 宝篋印塔から一字一石経出土

 
出土した一字一石経 曹洞宗吉祥寺(髙橋英悟住職)で昨秋に見つかった一字一石経を地域の人たちに広く知ってもらおうと、岩手県大槌町の同寺で3日、夏休み中の小学生たちが集まる寺子屋が開かれた。1~6年の子どもたち33人が、経石を手に取って丁寧に掃除した。

 一字一石経が見つかったのは昨年10月。参道の拡幅工事に伴い、入口付近にあった宝篋印塔(高さ約275㌢)を移動するため解体したところ、塔の下から約250年前に書かれた数万点の経石が出土した。地中には三方を石壁で区切った空間があり、経石とともにかめが2つ埋まっていた。一方に「金光明経」「般若心経」と書かれ、中にも経石が詰まっていた。

 塔は安永4年(1775)、同寺5世を務めた僧侶・大到見牛が建立。かめのほか地中に埋納されていた磁器の中には「拾壱品書納」と見牛が記した石が入っていたため、経石には金光明経のうち11品が書かれていると見られる。また、「宝」と書かれた石も納められていて、見牛は恐山(青森県むつ市)の経塚にあった慈覚大師円仁ゆかりの石だと記している。

 調査にあたった元岩手県立博物館学芸員で盛岡市の高校教諭・佐々木勝宏氏によると、宝篋印塔と一字一石経塚が揃って発見されることは非常にまれだという。経石は地元の浪板海岸のものを使った可能性が高く、筆跡も異なっていることから、「かなり大勢の人が携わっているはずだ。地域の信仰心の篤さを示している」と話した。

経石についた土を刷毛で払う子どもたちと髙橋住職 寺子屋が開かれたこの日、子どもたちが経石に付着した土を刷毛できれいに払うと、石に書かれた文字がくっきりと浮かび上がった。「何て読むの?」などと口々に質問した子どもたちは、髙橋住職から「つらいことがあっても諦めずに生きていこうと、ご先祖さまたちが願いを込めて書いた字だよ」と伝えられ、祖先の思いに触れた。

 髙橋住職は、飢饉や災害が繰り返されてきた地域にあって、塔を建立した当時の願いに思いを馳せ、「境内でなく表通りに面した場所に建てたのは、きっと多くの人に手を合わせてもらうためでしょう」と推し測り、「東日本大震災から今年で十三回忌を迎えました。復興への道はこれからも続きます。一字一石経が書き残された意義を見つめ直していきたいです」と語った。

 塔は老朽化しているため、修復後に元の場所に戻す予定だ。その際に、地域の人たちとともに新しい一字一石経も奉納しようと計画している。「今回出土した経石は、ご先祖さまたちとつながる贈り物だと受け取っています」と髙橋住職。「新しい一字一石経は、子どもたちにも書いてほしいと思っています。そして未来の子どもたちへの贈り物となればうれしい」

2023/8/10-17合併号 比叡山サミット36周年 屋内外2部構成で初開催 地球の警鐘は神仏の戒め 450人参集 平和実践誓う


平和の鐘の音が響く中、記念碑前で代表者が黙祷を捧げた 超宗教で世界の恒久平和を祈る比叡山宗教サミット36周年・第37回「世界平和祈りの集い」が4日午後、滋賀県大津市の天台宗総本山比叡山延暦寺で開催された。約450人が参加。神仏の導きによる平和行動の実践を誓った。全山に鳴り響く平和の鐘の音に乗せて、比叡山上から世界中に祈りを発信。オンラインでのライブ配信も行った。

 近年の異常気象による酷暑と昨年の35周年記念大会での激しい雷雨への対策から、平和の式典を屋内の延暦寺会館で挙行する形に今回から変更。阿部昌宏宗務総長は開式の辞で昨年のテーマ「気候変動と宗教者の責務」に言及し、「戦争は人間による最大の環境破壊」と指摘した上でロシアのウクライナ即時徹底を強く求めた。世界各地での「流血の惨事」にも深い心痛の念を示し、「対話と相互理解」による「利他の精神に基づく現代社会」の構築を提唱した。

 第1回(1987)開催時に各宗教団体の代表15人が平和への所信表明を行ったプログラム「平和への道―未来へ向けて」を原点回帰の意味を込めて復活。6氏が登壇し、各宗教の祈りと活動理念の表明を行った。

 次いで世界仏教徒連盟のパロップ・タイアリー会長(タイ)から寄せられた平和のメッセージを、全日本仏教会の里雄康意理事長が代読。仏教の因縁の教えから争いの原因を断つ思想を紹介した。ローマ教皇庁諸宗教対話省長官のミゲル・アンヘル・アユソ・ギクソット枢機卿のメッセージも披露された。

 今回から記念品を廃止して、相当分の費用を寄付金に充当。世界の子どもたちの権利の実現と健やかな成長を願って、(公財)日本ユニセフ協会への寄託を満場一致で決定した。支援金寄託式も挙行され、阿部総長が早水研同協会専務理事に40万円の目録を手渡した。

山上には 超宗教の約450人が参集した 休憩を挟んで、屋外の平和の祈り記念碑前広場に移動。平和の祈りを行った。まず次代を担う若手宗教者を代表して新日本宗教団体連合会の宮本泰(ひろ)克(なり)氏(妙智會教団)と教派神道連合会の北川真喜子氏(御嶽教)が特設ステージに登壇。「平和のために祈ることは、平和のために働くこと、そして平和のために苦しむことですらある」とする比叡山メッセージの全文を交互に読み上げた。

 大樹孝啓天台座主をはじめ、仏教・神道・キリスト教・イスラム教などの各教宗派・団体の代表9氏がステージに登壇。午後3時半、文殊楼横鐘楼の「世界平和の鐘」を打ち鳴らし、東塔・西塔・横川全山の鐘も共鳴する中、参加者全員が起立して黙祷を捧げた。

 大樹座主は主催者代表挨拶で、「人間の利己的営為」を原因とする戦争・災害・疫病による混乱を指摘。「自然の恵み」に感謝し「地球が鳴らす警鐘を神仏の戒めとして真摯に受け止めるべき」と述べ、「協働と調和の力で慈悲の心を未来へ向けて育まねばならない」と呼びかけた。

 今回から延暦寺会館も使用しての屋内外2部構成となったが、同館で毎年同時期に開催されていた「天台青少年比叡山の集い」の日程を1日早めることにもなった。そのため全国から参加した小中学生たちがステージ中央の地球儀に平和や災害復興などの願いを込めて折り鶴を奉納する恒例の光景が見られなくなった。

2023/8/10-17合併号 全青協・全仏婦・日仏保 ひまわりプロジェクト ウクライナ高校生 夢語る 


自分の夢やウクライナへの思いを語る(右から)ヴァレリアさん、マリアさん、ゲオルグさん 日本に避難しているウクライナの子どもに奨学金を支援する「ひまわりプロジェクト」を行う全国青少年教化協議会(全青協)、全日本仏教婦人連盟(全仏婦)、日本仏教保育協会(日仏保)は7月31日、港区の東京グランドホテルで、石川県の高校に通う3人の避難学生を招いて支援報告会を開いた。

 約1年前に日本に避難し、石川県輪島市の日本航空高等学校石川に通う、高校3年生のヴァレリア・ロトリエヴァさん、高校2年生のマリア・リスヒナさん、ゲオルグ・ハバロフさんが日本語で自分の夢や思いを語り、多くの支援に感謝した。

 ヴァレリアさんはウクライナ東部のハルキウから避難。その際に空襲に遭い「とても怖い思いをした」と吐露した。日本に避難し、日本語や日本文化を学び、書道部に所属。大学進学を考え始めたとし、「自分の人生を築いていくことを考えることが出来て嬉しい」と語った。「早く戦争が終わってほしい」と述べ、「地球が全員にとって故郷であり、平和のために戦わなければなりません」「私たちはそれぞれ異なりますが、だからこそお互いを知り、助けあうべきです」と平和への思いを口にした。

 同じくハルキウ出身のマリアさんは「日本の生活は快適で何より安全です。高校では大勢の日本人に囲まれ、まだ日本語は上手ではないですが、彼らと話すのは嬉しいです」と語った。書道部に所属し「美しい字を書くことは目標の一つ」と掲げ、「可能であれば、日本の大学に進学し、日本の伝統的な芸術について学びたい。上手く表現できないが、古いものを学ぶことで、自分で何か新しいものをクリエイトできる気がします」と芸術への深い関心を示した。

 ウクライナにいる頃から日本が好きで、将来は通訳者になりたいと考えていたゲオルグさんは、「日本語の勉強が進むにしたがって、言葉も日本人の文化もわかるようになってきました」と流ちょうに話した。「東京が好きなので、東京か近郊の大学に進学したい。言語を勉強し、ウクライナだけでなく世界中の平和のための架け橋になりたいです。それが僕の夢です」と語った。必要な支援を問われると「日本の大学の学費が高いので少しでも奨学金があると嬉しい」と希望した。

 ウクライナから国外への避難民は800万人超で日本には2200人が避難している。全青協・全仏婦・日仏保の3団体は昨年から日本に避難する子どもを対象に奨学支援を始動。現在、学校法人日本航空学園の石川・山梨・北海道の各校が受け入れている7人の学生に、就学一時金(10万円)と今年度から給付型奨学金(月1万円)を供与している。なお、同学園は全体で30人の避難民を受け入れている。全青協の神仁・代表執行理事は「日本にいる400人全員に支援の手が渡るよう、ひまわりプロジェクトを進めたい」とし、協力を呼びかけている。

2023/8/10-17合併号 前川喜平氏に聞く① 統一教会宗教法人解散編 するかしないか岸田首相の胸の内 民事裁判判決でも請求は可能


統一教会解散は自民党の事情がからんでいると話す前川氏 安倍晋三元首相銃撃事件後、多額献金問題や政治家との癒着など旧統一教会(世界平和統一家庭連合)をめぐる様々な問題が表面化した。1990年代からの霊感商法や名前を明かさない不当勧誘も形を変えながら続いていた。宗教法人を所管する文部科学省は昨年11月、解散に向けた手続きを始めた。この問題に積極的に発言している元文科官僚の前川喜平氏に、宗教法人解散問題のほか、第一次安倍政権で行われた教育基本法改正と宗教教育、そして大学時代に所属していた仏教青年会活動について語ってもらった。全6回予定。

 ――宗教法人法に基づく旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の解散命令の請求手続きが長引いています。

 前川 自民党の党内事情を考えれば、できれば宗教法人の解散はさせたくない。岸田文雄首相の胸の内を推し量ると、特に最大派閥である清和政策研究会(安倍派)に統一教会と関係の深い有力者が多い。下村博文さん、萩生田光一さん、細田博之衆院議長と大物政治家が統一教会と濃厚な関係にあった。おそらく統一教会は水面下で、こうした政治家に解散命令の請求を文科省に出させないよう色々働きかけているだろうと想像します。法人格を奪われるのは死活問題となるので何としてでも阻止したいはずです。

 また統一教会に解散命令が出されてしまうと、裁判所が清算人を選ぶ。清算人は法人に帰属する財産を処分する。その過程でそれまでのお金の出入りが把握されることもあり得る。それを恐れている政治家がいてもおかしくない。

 一方で解散への期待が高かった国民世論も、少しずつ関心が薄れてきたのも事実。統一教会以外の宗教2世問題も明らかになり、関心がそちらに移ったのかも知れない。そして政治関連でクローズアップされているのが、マイナンバーカードですね。こちらは連日報じられています。

 いずれ岸田首相は国民に信を問う衆院解散に打って出るでしょう。その際、宗教法人解散命令の請求を出して、支持率がアップしたところで衆院を解散するシナリオも考えているのではないか。最終的に解散請求をするかしないかは岸田首相の胸一つだと思うんです。(続きは紙面でご覧ください)

2023/8/10-17合併号 お寺の戦伝遺産を歩く 広島市光禅寺の被爆留学生墓地 マラヤ出身 19歳の広島理科大生 本願寺派の墓地にイスラム式で埋葬



当時の住職・星月晨人さんの思いで建立された墓 広島市が管理する「原爆死没者名簿」に記載されている犠牲者数は、昨年8月6日時点で33万3907人。今年の8月6日には、その中に17人の被爆留学生が追記載された。戦争末期に中国から留学していた9人と、南方特別留学生の8人だ。

 南方留学生の1人だったマラヤ(現マレーシア)出身のイスラム教徒、ニック・ユソフさんの墓は、爆心地から約10㌔離れた佐伯区五日市の浄土真宗本願寺派光禅寺(星月光生住職)に立つ。熱心な浄土真宗門徒の地のため、約1500の墓碑の殆どは「倶会一処」「南無阿弥陀仏」と刻まれている。その中にあってユソフさんの墓は完全なイスラム式で、ひときわ目を引く。

 南方特別留学生制度は、1943年に定められた東南アジア諸国の優秀な人材を日本に留学させ「大東亜共栄圏建設ニ協力邁進スベキ人材ヲ育成スル」制度。目的はさておき、ユソフさんも非常に優秀な人物だったことは間違いなく、広島文理科大学(現在の広島大学)で教育学を学び、興南寮で暮らした。日本人の学生が次々に徴兵される中でも彼らは大学で勉強ができた。それが逆に、運命の分かれ道でもあった。

 8月6日に原爆が落ちてきて、爆心地から900㍍の距離にあった寮は一瞬にして崩壊した。手ひどく火傷したユソフさんは必死に西へと逃げたが、五日市のあたりで倒れ、19歳で生涯を終えた。遺体は五日市小学校校庭で荼毘に付されたという。

 光禅寺は爆心地から遠かったため、直接の被害はなく、本堂に被災者を受け入れ救護し、また死去した際は葬儀・供養をする拠点となっていた。そんな折、ある消防士が「ニック・ユソフ」と書かれた、塩壺のように小さな骨壷を、光禅寺に預かってほしいと持ち込んできた。当時の住職・星月晨人さんは異国で死んだ青年を気の毒に思い、遺骨を引き取った。

 晨人さんの孫にあたる星月空前住職は「おじいさんは、埋葬にあたり、イスラム教では亡くなった場所でお墓を作らなければならないとの教義を知って、ここに建立を決意したようです。東京まで行って正確なイスラム式の墓を見学してから作ったといいます」と話す。こうして1964年、アジア学生文化協会が南方特別留学生の遺族を招聘した事業にあわせて墓が建立された。

 この時、ユソフさんの弟が墓参する予定だったが、諸事情で来日できず、マレーシア外務省の官僚が代理墓参している。後に「私たちは子々孫々までこうした日本の方々の温かいおとりはからいを忘れることができません…五日市の星月晨人師は故ニック・ユソフ君のため立派な墓を作ってくださいました」との礼状が協会宛に届いた。

 また昨年3月にはユソフさんの弟の孫に当たるマスタキームさんが墓参。星月前住職に経緯を説明されると、心から感謝を示し、原爆のことを故郷に伝えることを誓った。(続きは紙面でご覧ください)

2023/8/10-17合併号 奈良・東大寺 10月に良弁1250年法要 国宝公開など関連行事多数


国宝・良弁僧正坐像(撮影:三好和義) 華厳宗大本山東大寺(奈良市)は10月14日から16日まで、開山・初代別当の良弁僧正(689~773)の一二五〇年御遠忌法要を営む。7月31日に橋村公英別当、上司永照執事長が同寺本坊で記者会見して明らかにした。普段は開山堂に鎮座する良弁僧正坐像が法華堂で公開されるなど、遺徳を偲ぶ秋となる。

 14日の開白法要は「顕無辺仏土功徳経講讃舞楽法要」で、大仏開眼の時以来舞楽を奉納していることに倣った古式ゆかしいものとなる。南都楽所による舞楽「庭上一曲」は大法要でしか演奏されない特別な曲だ。裏千家の千宗室家元が献茶、華道池坊の池坊専好次期家元が献華する。中日には表千家家元の献茶と草月流家元の献花、結願では武者小路千家家元の献茶と小原流家元の献華など、日本文化の精髄を結集した儀式となる。

 関連行事としては良弁僧正が発願し造立された秘仏・執金剛神立像(国宝)の開扉(10月1日~16日)、良弁僧正坐像(国宝)を法華堂の論議台に安置して公開(10月28日~11月19日)など。歌手のMISIAさんは2夜に渡る慶讃奉納公演を行う。いずれも詳細は今後、東大寺のHPで明らかにされる。

 良弁僧正が生まれてすぐに鷲に攫われ、杉の木に引っかかったところを高僧義淵に助けられ仏門に入ったという伝説は人形浄瑠璃などで知られるが、前半生の実像は詳らかではない。確実なのは義淵に弟子入りして東大寺の前身寺院である金鐘寺に入り、天平12年(740)には大安寺審祥を招いて「華厳経講説」を主催し、聖武天皇に協力して東大寺創建に尽力したこと。

 橋村別当は「審祥は唐に入り、法蔵から中国華厳宗の奥義を学んだ人。その人を金鐘寺に招き講説を開いた良弁僧正は中国華厳宗の正統を伝え、受け継いだ人と言える」とし、仏教史における重要性を強調した。

2023/8/3 第57回仏教伝道文化賞 本賞 今枝由郎氏(歴史文献学者) 奨励賞 藤田一照氏(曹洞宗僧侶)


 (公財)仏教伝道協会(BDK、木村清孝会長)は7月27日、第57回仏教伝道文化賞選定委員会(大久保良峻委員長)を開催し、仏教伝道文化賞に今枝由郎氏(76、歴史文献学者)を選出した。沼田奨励賞は藤田一照氏(69、曹洞宗僧侶)に決まった。贈呈式は10月19日午前11時から、東京都港区の仏教伝道センタービルで行われる。

 仏教伝道文化賞は国内外で仏教関連の研究や論文、美術や音楽、仏教精神を基に活動する実践者など、幅広い分野で仏教精神と仏教文化の振興と発展に貢献した人物や団体に贈られる。2012度からは今後の活動に期待ができる個人や団体に贈る「沼田奨励賞」が設けられた。

 本賞の今枝氏は大谷大学卒業後、パリ第七大学で文学博士号修得。フランス国立科学研究センターでチベット・ブータン歴史文献学の分野で多大な業績を挙げるなど、国内外で最先端の仏教研究に従事してきた功績が評価された。

 奨励賞の藤田氏は東京大学教育学研究科博士課程中退。米国での坐禅指導の経験から英語を駆使して禅の精神を現代人に伝え、坐禅の実修を指導。宗派を超えて活動し、次代を担う仏教指導者として期待されている。今秋のBDK主催「仏教を英語で学ぶ会」の講師を務める。

 受賞者には賞状と賞金(本賞500万円、奨励賞300万円)、記念品が贈られる。

受賞者コメント

 今枝由郎氏 戦後日本仏教の役割 小さくなっていないか
 
 受賞は全く予想外のことで驚いています。大学を卒業してからすぐにフランス国立科学研究センター(CNRS)に勤め、定年まで研究一筋のキャリアでした。ブッダという人が何を考え、何と説いたのかを知りたいというのが研究の出発点で、仏典が最も整備されているチベット仏教に重点が移りました。国立図書館顧問としてブータンで10年間生活しましたが、国の指針、生活の指針に仏教があり、今の21世紀で仏教が生かされていると実感しました。仏教の伝統がなかった欧米でも仏教に対する関心や評価が高まりつつあります。

 一方で、日本では確かに仏教国ですが、漢訳仏典を基にした各宗派の開祖の教えが中心で、ブッダが何を説いたのか遡っていない気がしています。日本仏教が長い間影響力を持ってきたことは確かですが、明治以降、特に第二次大戦以後の社会で果している役割は小さくなっている気がします。世界の仏教と比較してみると好対照です。宗派の枠を超えて、普遍性をもった思想家としてのブッダがどういう生き方を示したのか、そこに戻ることが大切だと思います。

 藤田一照氏 苦行にならぬ坐禅 見出していきたい

 授賞の知らせを聞き、「なぜ私が!?」と驚きました。仏教塾やオンライン禅コミュニティを開いたり、他宗派や他分野の人たちとの対話を持ったりと、いろいろな試みをやってきたことが評価されたのなら、後に来る若い世代に何らかの刺激になるかもしれません。誠に光栄なことです。

 私の修行の目標は一貫して坐禅をすること。そしてそれをあまねく人々に勧めることです。坐禅がどのような意味で仏道の中核となっているのかを、現代の言葉で分かりやすく解き明かしてみたいと思っています。主宰する坐禅会では、現代人にとって坐禅が苦行にならない道筋を一緒に見出していく実践を進めています。受賞を励みに今後とも努力と工夫を続けていきたいです。

 将来、多目的に使えるフリースペースを開設したいと考えています。賞金はその一部に充てるつもりです。蔵書を閲覧できる図書室、坐禅やヨーガ、武術、治療技法などを学ぶ広いスタジオとする構想で、合宿もできるようにします。高価で手控えていた全集や書籍も購入したいです。

2023/8/3 今秋、韓国古都で大百済典 日本に仏教伝えた聖明王即位1500年


扶余郡の主会場、百済文化団地。古代の王宮や古墳、大寺院、村がそのまま再現されている 日本に仏教を伝えるなど、大和王権による古代国家の建設に大きな影響を与えた朝鮮半島三国時代の王国・百済。その都が置かれた韓国中部忠清南道の公州(コンジュ)市と扶余(プヨ)郡の全域で9月23日から10月9日まで、10年に1度の「大百済典―大百済、世界につながる」が開催される。世界遺産である百済歴史遺跡地区を中心に、多彩なプログラムを用意。国内から148万人、海外から2万人の観光客を見込んでいる。忠清南道・公州市・扶余郡が主催し、百済文化祭財団が主管する。

 世界遺産の両都市・公州市で開幕し、扶余郡で閉幕。一帯には古墳や仏教史跡、古代日本と深く関係する軍事施設の遺構等が多数点在し、街中には古都の風光が薫る。

 「韓流の元祖!文化強国・大百済の価値に再注目」をテーマに、韓国最大級の歴史文化祭として古代の魅力を発信。海上王国とも呼ばれた百済と交流のあった日本、ミャンマー、インドネシアなどとの文化芸術公演交流「交流王国大百済路!」が催される。

 さらにKポップスターのライブを計画。最新のマルチメディア技術を駆使した展示・体験プログラムも実施する予定だ。

 公州市と扶余郡では毎年秋に「百済文化祭」を開催。今回で69回目となる。その端緒は、扶余のある老人の夢に滅亡した百済の将軍たちが現れ、苦しみを訴えたことにあるという。当初は扶余の住民が慰霊祭を営んできたが徐々に拡大。韓国で最も長く続いている文化フェスティバルになった。

 今年は公州に古墳がある第25代武寧王の逝去と、泗沘(扶余)に遷都して日本に仏教を伝えた百済中興・第26代聖王(聖明王)の即位1500年、百済ゴールドとも称すべき国宝金銅大香炉の発掘30年を記念して企画。期間も規模も3倍という過去最大のスケールで開催される。

 期間中、公州市では歴代君主と無名将兵の極楽往生を祈る霊山大斎、扶余郡では君主と将兵に加え滅亡する王国と運命を共にした百済宮女たちを慰霊する水陸大斎を厳修。名実ともに百済が滅んだ白村江へと至る大河・錦江(クムガン)では、文化財と歴史的人物をコンテンツとする水上マルチメディアショーが披露される。扶余の主会場となる百済文化団地は王宮や古墳、大寺院、村をそのまま再現した遺跡公園で、一歩足を踏み入れれば古代社会に迷い込んだような高揚感を覚えるだろう。

 日本国内の各旅行社でツアーを企画中。ソウル市から公州市までの高速鉄道や仁川空港から忠清南道に至る高速バスなどもあり、タクシーも便利。古代仏教史ファンには、渡韓の秋になりそうだ。

2023/8/3 原爆孤児育てた真宗僧侶 山下義信展を開催中 広島平和記念資料館 9月11日まで


原爆孤児の生活に肉薄する貴重資料多数 浄土真宗本願寺派僧侶で、私財を投じて原爆孤児を育成する「広島戦災児育成所」を設立した山下義信(1894~1989)の活動を紹介する企画展「広島戦災児育成所―子どもたちと山下義信」が9月11日まで広島平和記念資料館(広島平和記念公園内)で開催されている。山下は終戦直後からの8年間で約170人の子どもを育てた。

 山下は在家出身で、家業は呉服店。世界恐慌のため店が傾き、信仰心の篤い母の勧めにより広島仏教学院で学んだ後に出家し、布教伝道に携わった。戦時中はすでに中年だったが陸軍志願兵として長崎県五島列島に駐屯し、同地で終戦を迎えた。広島に戻った山下は数多くの戦災孤児に衝撃を受け、五日市に戦災児育成所を設立。育成所内には「童心寺」を建立し、毎月6日の追弔法要を欠かさなかった。この童心寺から何人もの少年が僧侶になったことは特に注目される。「お坊さんになったら、お母さんに会えるの」と尋ねる孤児に、山下が「ああ会えるよ」と答えると、「僕はお坊さんになりたい」と返ってきたという。

山下義信の歩みを紹介する企画展 山下は1947年には第1回参院選に出馬し当選。社会党の議員として原爆医療法の原案を作り、千鳥ヶ淵戦没者墓苑の設立に尽力するなど、多面的に活動した。1953年に育成所が広島市に移管された後も、山下は生涯、原爆孤児のことを気にかけ続けたという。童心寺は数年前に宗教法人としては解散している。

 今展は山下の家族から寄贈を受けた各種資料に基づく。国立広島・長崎原爆死没者追悼平和祈念館のホームページでは山下の長女の岑子さん、長男の晃さんの被爆体験記を掲載している。

2023/8/3 レポート 学徒出陣80年と『きけわだつみのこえ』<下>
真田増丸の子息 真田大法の手記を読む 軍事用語一切なしの異色の記録 父亡きあと支えた母への思い強く


仏教済世軍を創設した真田増丸(大日本仏教済世軍編『真田増丸先生言行録』1932年刊) 『きけわだつみのこえ(第1集)』(以下『わだつみ』)は戦死学徒74人の手記を掲載する。学徒出陣組だけではなく、それ以前に出征した学徒の手記も収載。そうした中で異色なのは真田大法である。一読して念仏者(仏教徒)であることは確認できる。大法は、仏教済世軍を創設し民衆救済、仏教伝道に努めた真田増丸の次男であるとわかった。文面から父である増丸を早くに喪い、生活に困窮していた様子と母への思いが伝わってくる。

 「父が一生を宗教運動ですごし、六人の子を残し、しかも何ら遺産とてない」

 手記の一部にはそうある。宗教運動とは真田増丸の仏教済世軍を指す。まずは増丸と済世軍を簡単に確認したい。

 増丸は明治10年(1877)、福岡県の本願寺派浄円寺に生まれ、旧制山口高校、東京帝大を経て大分県西光寺の東陽円成に師事。ただし山口高校卒業後、徴兵検査を受けて甲種合格し、志願兵として長崎大村連隊に入営して、4カ月ほど軍隊生活を送ってから東京帝大に戻った(真田大信編『街頭の聖者 真田増丸先生の信仰と生活』)。

 本願寺派僧侶であり、熱烈な念仏者の増丸は大正4年(1915)、北九州・八幡の地に仏教済世軍を組織し、伝道を開始(大正3年説あり)。「教勢は北海道から九州に至る全国と朝鮮、台湾に100以上の支部をもち(ただし西日本に多い)、機関誌発行部数は約1万、信者数は正確にはわからないが、数万~数十万と言われている」(藤井健志「大日本仏教済世軍の展開と真宗教団」)。大正から昭和にかけて大いなる存在感を示した。

 増丸は35歳の時(1911)、15歳年下の楳谷幾代(戸籍ではイクノ)と結婚。大正3年(1914)に長男の大信、3年後に次男の大法が生まれ、その後に4人の女児が誕生。しかし増丸は大正15年(1926)2月、急性盲腸炎で死去。数え50歳だった。死に際、増丸は2人の男の子に、こう言い遺した。(続きは紙面でご覧ください)

7月

2023/7/27 豪雨被害 九州から東北まで広範囲に 各宗調査 浸水や土砂崩れなど


 6月から7月にかけて日本海側を中心に線状降水帯が発生。各地で浸水などが相次ぎ、各宗派でも被害状況の把握に努めている。被害は九州から東北まで広範囲に及んでいる。

【天台宗】
 九州西教区で4カ寺、山陰教区で1カ寺、北陸教区で1カ寺の被害があった。
 福岡県筑紫野市の武藏寺(井上隆照住職)では本堂裏山の崖が崩れた。久留米市田主丸町の阿彌陀寺(矢野晶洋住職)では境内横のクリークが氾濫し、境内が浸水。建物被害はなかった。佐賀県鳥栖市の昌元寺(今村智照住職)では納骨堂で雨漏り被害。三養基郡の大興善寺(神原玄晃住職)では遊歩道の土砂流入と駐車場壁面の土砂崩れがあった。
 鳥取県鳥取市の善光院(吉田智晃住職)は本堂裏手前まで土砂が流入する被害があった。鯖江市の中道院(西村智晃住職)は山門横の壁が崩落したが、人的被害はなかった(21日現在)。

【高野山真言宗】
 山口県防府市の国分寺の境内土塀約4㍍が倒壊した。秋田県について被害報告はないが、現在調査中(21日現在)。

【浄土宗】
 山口県徳山市の性梅院で参道ののり面崩落。山口市の臨海院で台所の天井落下の被害。愛媛県松山市の誓重寺で境内地の表層崩壊の被害。
 秋田市の仰信寺で本堂・庫裏が床下浸水のほか境内全域が浸水。小屋と自家用車が水没する被害が出ている。
 福岡県では田川郡香春町の来迎寺で庫裏・内仏雨漏り、床の間の浸水のほか、法然上人掛け軸、香木、香炉台が濡れる。朝倉市の浄福寺ではインターネット、電話が不通。久留米市の法林寺では境内地で駐車場等に泥水流入。同市の専念寺では境内・墓地などに泥流入の被害があった。人的被害は報告されていないという(19日現在)。

【浄土真宗本願寺派】
 山口県では美祢市の西音寺で本堂・庫裏が床下浸水、保育園が床上浸水。同市の妙蓮寺で裏山が崩壊。下関市の宗要寺でも裏山が崩壊した(9日現在)。

【曹洞宗】
 福岡県では境内地への土砂流入が8カ寺、土砂崩れが2カ寺、雨漏りが4カ寺。熊本県では土砂崩れによる建物の被害が2カ寺。佐賀県でも3カ寺の被害があった。
 秋田県では土砂崩れが2カ寺、床下浸水が1カ寺。富山県でも複数の土砂崩れがあった(21日現在)。

 【日蓮宗】
 秋田市内の玄妙寺で本堂・庫裡が床下浸水する被害があった。南秋田郡五城目町宗延寺、山本郡八峰町覚応院では断水被害。秋田市日境寺で電話不通の被害があった(住職・寺族の安否は確認されている)。 九州地方では大分県中津市立正教会で床上浸水の被害があった(17日現在)。

2023/7/27 築地本願寺・東京教区 新旧総長を祝賀慰労 池田新総長 御同朋・御同行を強調


挨拶する池田総長(手前)と石上前総長 浄土真宗本願寺派の築地本願寺と東京教区が主体となって19日夕、東京・築地本願寺第二伝道会館で石上智康前総長と池田行信新総長の祝賀慰労会が開かれた。中東歴訪から帰国したばかりの岸田文雄首相が挨拶した。政財界や教区内から約200人が参席した。

 発起人を代表して築地本願寺の中尾史峰宗務長が開会挨拶。石上総長が平成26年(2014)9月から今年5月まで8年8カ月にわたり総長職を務めたことから「宗政史上の初めてと言っても過言ではない。私もこの間、厳しくご指導いただいた一人でございます」と述べて会場を沸かせた。さらに東京教区選出の宗会議員による総長就任が続いたことに「池田行信総長におかれては、8年8カ月を超えるようご活躍を心から期待している」とエールを送った。

 続いて築地本願寺の関連団体である拓心会世話人で築地聞真会会員の岸田首相が登壇。「石上前総長は時代に合った方法を取り入れられた。境内にカフェが開かれ、夏の盆踊りと開かれたお寺を目指されて様々な取り組みを進められたと伺った。私も拓心会スタート時から石上総長から貴重なご指導をいただいたことを懐かしく思い返した」と述懐した。

 そして世界が直面している分断や対立から協調へという外交政策を示し、「平和と平穏な暮らしが切に願われる時代になり、池田新総長には引き続き多くの人々の心をお支えいただきたい」と激励した。

 9月に87歳になる石上前総長は、「アッという間に時が過ぎたという感じです」と元気に8年8カ月を回想。また「執着のとらわれから解放されないと人間は幸せになれませんよとお釈迦さまは仰っている」と法話調で挨拶した。池田総長には「頭脳明晰、問題点をきちんと整理して明確なメッセージを出される。適応力のある新総長」と讃えた。

 池田新総長は、「石上前総長の8年8カ月は戦後総長としては最長記録。それを超えるように頑張れということだが、ある新聞には短命に終わるのではないかという記事を書いてくださった方もいる」と苦笑い。

 さらに親鸞の教えである「御同朋・御同行」の精神に基づいた教団であることを強調。その上で来年4月に築地本願寺で誕生850年と立教開宗800年法要が営まれることに言及し「この関東エリアはまさに立教開宗の地。この法要を機会として浄土真宗の教えを世界や次の世代、子や孫に伝えていく大切な契機にしていかなければならない」と気を引き締めた。

2023/7/27 「中国化」過程で仏教弾圧 チベットと南モンゴル 相互条約110年、主権回復訴える 東大駒場で宗教学術シンポ


握手を交わすテムチルト氏(右から2人目)とドルマ氏(同3人目) チベットとモンゴルが互いの独立を承認した「チベット・モンゴル相互承認条約」の締結から今年で110年を迎えたのを記念し、東京都目黒区の東京大駒場キャンパスで15日、第2回モンゴル・チベット文化・宗教学術シンポジウムが開かれた。参加者約50人が、中国の仏教弾圧の歴史に対する認識を深めた。

 1911年に起きた辛亥革命による清朝の崩壊前後、その支配下にあったチベットとモンゴルがそれぞれ独立を宣言。約800年にわたる「帰依処と施主」と呼ばれる仏教に基づく関係を背景に両者は1913年、互いを主権国家と認める同条約に調印した。しかし、国際的には独立は認められず、内モンゴル自治区(南モンゴル)やチベットで中国の支配が現在も続いている。

 シンポを主催した人権問題や独立を訴える「南モンゴルクリルタイ(世界南モンゴル会議)」(神奈川県川崎市)の会長で、ドイツに亡命しているショブチョード・テムチルト氏は、国際社会で取り上げられる人権問題だけでなく、主権回復の重要性を強調。「祖先たちの魂がこもった土地を取り戻し、必ず主権を勝ち取りたい」と語気を強めた。

 初来日したチベット亡命政府の外相にあたるノルジン・ドルマ情報・国際関係相も出席。「チベットや南モンゴルを領土だとする中国の主張に歴史的根拠はない」とし、「不法な占領だと明らかにすべきだ」と訴えた。

 東洋文庫研究員の宮脇淳子氏は東アジアの歴史的な地図の記録を示しつつ、チベットとモンゴルが中国の領土でなかったことを提示。現在の中国の領土について、「3分の2は中国でなかった」と述べた。資源を求めて少数民族の土地を搾取していることを、「知らずに援助したのは日本の落ち度だ」と日本の責任にも言及した。

 東京大大学院教授の平野聡氏は、チベット・モンゴル・中国をかつて結び付けていた仏教が清末以降、漢人主導で進められた「中国化」の過程で弾圧され、チベットやモンゴル独自の社会や文化も否定されたと指摘。「まったく馴染みのない『中国』の名における主権と国家形成の強要は、実質的に植民地主義と変わらない」と語った。

2023/7/27 レポート 学徒出陣80年と『きけわだつみのこえ』 わだつみのこえ記念館 岡田裕之館長に聞く

 
展示物の前で「わだつみのこえ記念館」の岡田裕之館長。10月には95歳を迎えるが記憶力は抜群だ 東京・本郷の東大赤門近くに戦没学生たちの記録を展示する「わだつみのこえ記念館」がある。赤門アビタシオンビルの中の一室(1階と2階)。コンパクトな作りながら、残された手記は深く重いメッセージを発している。今年は学徒出陣から80年となり、東大五月祭では本郷キャンパス内で「戦没東大生の遺稿展」が開かれた。東大出身で今年10月に95歳となる岡田裕之館長(法政大学名誉教授、経済学者)が解説を担当した。学徒出陣80年と版を重ねている日本戦没学生記念会編『きけわだつみのこえ―日本戦没学生の手記』(岩波文庫、以下『わだつみ』)について岡田館長に取材した。

 『文藝春秋』8月号で「代表的日本人100人」が企画された。昭和史研究家の保阪正康氏が選んだ5人のうち、1人が慶応大経済学部出身の特攻隊員、上原良司だ。『わだつみ』には最初と後半の2カ所に手記が掲載されている。保阪氏が言うように「明日一人の自由主義者がこの世から消えていきます」はよく知られた一節である。

 「上原さんは、米国が自由主義なのは知っている。自分がその自由主義と戦っていて、敵が優れていることも知っている。国家の自負心のためにそんな国と戦って死ぬのはどうなのかという思いもある。そういうところを見落としてはいけない」

 そう岡田氏は文字と行間から滲み出る趣旨を洞察し解説する。驚くのは、『わだつみ』(第一集)には74人の遺書や手記が収載されているが、名前とその内容をほぼそらんじていることだ。戦時下にあって上原は自由主義者を表明したが、反戦の意思を表す人もいた。岡田氏が「もっとも尊敬する人」として名前を挙げたのが佐々木八郎(東大経済学部)である。

 「国籍が違うからと人を憎んで殺すことができるか、そんなことは出来ないんだと書き残している。その際に宮沢賢治の童話を紹介しているんです。すでに宮沢賢治は亡くなっていましたが、かなりの人が読むようになっていた。『烏の北斗七星』という童話で、佐々木さんは学徒出陣の歓送会で、これを使った」

 「だいたいの内容は、山烏と大尉の烏が戦争して、山烏が戦死する。その後に大尉の烏が、なぜ憎み戦って殺し合わなければならないのだろうかと思った。『ああ、マジエル様、どうか憎むことのできない敵を殺さないでいいように早くなりますように、そのためならば、わたくしのからだなどは何べん引き裂かれてもかまいません』と祈りながら北斗七星に向けて飛んでいく。マジエルというのはラテン語。大きいという意味で、おおぐま座のこと。学徒出陣で、はっきり反戦の意思を表明し、文章として残しているのは佐々木八郎さんだけ」(続きは紙面でご覧ください)

2023/7/20 浄平協が会見 戦時資料報告書が完成 教団や高僧の戦争協力を記録 戦争知らない世代に伝える


編纂の理由を話す廣瀬理事長 浄土宗平和協会(浄平協)が編纂した『浄土宗「戦時資料」に関する報告書』がこのほど完成し、12日に京都市東山区の宗務庁で記者会見を開いた。廣瀬卓爾理事長は「かつて宗門が何をしてきたか、僧侶はしっかり認識する必要がある。過去にあったことをこれからの日本社会にどう活かしていくか、何が課題なのかを意識してもらうために作った」と説明。足かけ4年の歳月を費やしたA4判170頁の大著は、もうじき来る戦後80年に何を問いかけるか。

 川中光敎宗務総長(浄平協会長)は「私は昭和25年生まれで、戦争を知らない。現役住職の皆さんがたも、ほぼ戦争を知らない人だと思う。本当に驚き、勉強させてもらった」と挨拶。自坊(当麻寺奥院)の軍人墓地は参拝する遺族が少なくなったことを受け。戦後75年を機に撥遣供養したが、その際、戦没地などを記録に残したことを明かし、このような戦時資料の記録化は大切だと力説。「今、改めて平和が求められていることに気づいてもらえたら、この報告書は大成功だろう」とした。

本紙6月15日号コラム「訴える戦時資料」で紹介された「砲弾薬莢で作ったおりん」等 戦時資料に関する委員会委員長の大谷栄一佛教大学教授が概要を説明した。大谷教授が執筆した「戦時下の仏教界と浄土宗の動向」をはじめ、「浄土宗の戦時体制・組織」「浄土宗内の戦争に関する募集や広告」(赤坂明翔氏)「戦時下の浄土宗の布教方針の変遷」(宮入良光氏・八木英哉氏・武田道生氏)「戦時下の浄土宗の教学・布教活動」(小林惇道氏)「『宗報』にみる軍部および戦時組織との関わりについて」(江島尚俊氏)の全6章構成。

 大谷教授が「宗報を徹底的に調査した」と苦心を述べるように、日中戦争期以後の宗報から浄土宗の戦争協力や戦時体制の確立が実証されている。尼僧の会である吉水会が陸軍に5万円を献納して作られた陸軍機「吉水号」の写真なども掲載。大谷教授は「これまでの仏教教団の戦争協力の研究で、広報や機関誌に載っている募集や広告記事はほとんど注目されてこなかったが、それらにより分かることは多い。特に慰問文を集めて戦地に送る活動が活発だったことなどが明らかになった」など、さまざまな新知見があると語った。

 椎尾弁匡などの高僧の戦争協力活動も、名前を隠さずに記されている。浄土宗には林霊法のように戦争に反対した抵抗僧侶も少数いたが、今回の調査でそういった抵抗僧侶は新たに発見できなかったという。大谷教授は「日中戦争以後は状況が厳しくなり、反戦の意志を表明することが本当に難しくなった」と解説した。

 今後、宗報などで存在を周知し、希望する寺院に配布。宗外の人にも利用を期待する。他教団の戦争協力との比較研究にも大きな価値を持つだろう。

2023/7/20 神奈川県仏教会 お寺の生き残り戦略を討議 ネット仲介、僧侶派遣に危機感 死者数増も葬儀縮小や減少が


仏教界や地域仏教の将来を議論したパネル討論 神奈川県仏教会(佐藤功岳会長)は6月27日、横浜市内で開いた総会で、パネルディスカッション「仏教界の将来を問う~現代の葬儀事情とお寺の生き残り戦略」を開催した。ネット系葬儀仲介業者の台頭などにより地域仏教界を取り巻く外部環境が悪化しているとして、有識者が現状や対策を語り合った。

 全日本仏教会(全日仏)の戸松義晴理事(前理事長)は、これまでに行われた世論調査などから、仏教界を取り巻く現状を説明。2012年に読売新聞に掲載されたデータでは、戒名について56%が「必要ない」と答えており、最終的には戒名に関わるお布施の金額が「一番の問題」になると分析。

 全日仏の調査でもコロナ禍後、寺院に対する満足度が54%から42%に下がったとし、満足の要因は、「住職の誠実な対応」だったが、不満要因は「お布施」だった。

 お布施が高いと感じている人は多く「一般の方が思うことは、お檀家さんも思っていると考えた方がいい」とした上で、寺院の生き残り戦略について「一軒一軒のお檀家さんのことをどれだけ知っているか」が重要になると指摘した。

 葬儀社の全国組織である全日本葬祭業協同組合連合会の石井時明会長は昨今の葬儀の変化について、「家族葬が認知され、昔のような葬儀に戻る要素がない。ちゃんとした葬儀の方がよいと言っても、葬儀社が儲けたいからだと言われてしまう」と嘆息。家族葬により参列者が少人数に限られ、「(通夜葬儀で)2日もやる意味が問われている」とし、「理論的に通夜をやる意味が届いていない。遺体の処理業になってしまっている」と葬儀社としての状況を話した。

 こうした状況の中、多額の広告費を使い低価格を謳うネット系葬儀仲介会社が台頭している。都内で葬儀社を営み再生回数3500万回以上の葬儀系ユーチューバーでもある佐藤信顕氏(佐藤葬祭代表)は、ネット系葬儀社の僧侶派遣問題に言及。都内火葬場大手の東京博善が関わるネット系僧侶派遣で、お布施の75%の紹介手数料が取られている事例を挙げ、「仏教の中でお布施をもらい、後進を育成し物を直してというサイクルから、手数料で7割が流れたら、次の世代が回らなくなる。半分以上もっていくのはやりすぎ、非常識だ」と批判した。

 佐藤氏は「これでは仏教がもたない。お墓だって長く続かないということを、まず分かってもらうことが大事」と提言。ネット系葬儀紹介会社や僧侶派遣を利用しないことを訴えた自作のチラシを会場で配布し、「皆さんからこの話をして、まず身の回りの方から守ってほしい」と檀信徒や社会に発信していく必要性を強調した。

 日蓮宗現代宗教研究所の赤堀正明所長は、今後の葬儀関連業界について「少子高齢化で亡くなる人が増えても、葬儀をする人が減少しているので、エンディング産業は安閑としてはいられない」と予測。寺院についても、現在の出生率では2世代後には「いずれ檀家が4分の1になる。それを当たり前のことと考えた上でどう生き残るか。その問題設定、目標設定をしなければ何もなくなるだろう」と提起し、仏教界の課題として向き合うことを訴えた。

2023/7/20 密教教化賞5氏、学芸賞2氏決まる


 真言宗各派総大本山会(芙蓉良英代表総務)は3日、京都市東山区の総本山智積院内智山派宗務庁に常任委員会を招集し、第55回密教教化賞の受賞者5氏を決定した。

 川西實仁氏(94・総本山金剛峯寺推薦、ハワイ・リリハ真言寺)は、ハワイ開教区総監部開教師として派遣されて以来68年間にわたって現地で活動。本堂内外の整備やサンデースクールの開催、青年会等の附属団体の創設などで廃寺寸前から活気を取り戻し、現地では治安面からも珍しい「365日いつでもお参りできるお寺」として地域の拠り所となっている。

 関藤定道氏(78・総本山教王護国寺推薦、岡山県井原市・浄見寺)は平成8年から保護司として更生活動に尽力し、安心安全な地域作りを現在も継続中。平成19年から12年間宗派教学部長を務めるなど、教学・法流の護持継承に努めている。

 今井奉一氏(78・総本山醍醐寺推薦、愛媛県西条市・金仙寺)は30年以上、県立高校教員、保護司として教育活動に邁進。自坊では法話会を毎月2回開催している。

 根岸榮宏氏(77・総本山長谷寺推薦、東京都荒川区・養福寺)は宗派要職歴任の他、地区仏教会理事長や茶道家として活動。保護司や地元ライオンズクラブ会長として地域作りに貢献している。

 御嶽隆英氏(75・総本山智積院推薦、埼玉県戸田市・観音寺)は、宗派教化部長など要職を歴任。平成11年から保護司の活動を続けている。地元の選挙管理委員や文化財保護・審議委員も長年務めるなどした。

 4日には第61回密教学芸賞選考専門委員会を同庁で開き、現代を代表する事教二相の大家である中西啓寶氏(89・総本山金剛峯寺推薦、高野山真言宗元管長、和歌山県高野町・高野山釈迦文院)と、自らの真言教学研究の成果を様々な社会活動や平和活動に活かしている藤田隆乗氏(68・総本山智積院推薦、神奈川県川崎市・川崎大師平間寺)の受賞を決定した。

 両賞の表彰式は10月30日午前11時から、奈良県生駒郡平群町の信貴山真言宗大本山玉蔵院で挙行する予定。

2023/7/20 龍谷大学 ノーベル賞のユヌス博士に名誉学位 学生の行動に大きな期待


「日本は特別な存在」と語ったユヌス博士 マイクロクレジット(小口低金利無担保融資)の「グラミン銀行」により貧困層や女性の経済的自立を助けたことでノーベル平和賞を受賞したバングラデシュの経済学者ムハマド・ユヌス博士が7日に来日。8日には龍谷大学深草キャンパス(京都市伏見区)を訪れ、名誉博士号を授与された。

 ユヌス博士は2019年の龍大創立380年記念式典の基調講演を行っており、来学は2度目。龍大にはユヌス博士の推奨するソーシャルビジネスを研究し実践するための機関「ユヌスソーシャルビジネスセンター」が設立され、オンラインを通じて教職員や学生と学びを深めてきた。入澤崇学長はこういった縁に感謝し、「社会的課題の解決に重きを置くソーシャルビジネスの概念は、本学が行動哲学としている自省利他を基本に据えた『仏教SDGs』と深いつながりを有するものです」と述べた。

 ユヌス博士は受賞挨拶で、「もはや社会課題を脅迫で解決する時代ではない。かつて恐竜がこの惑星の主だった時代があったが、恐竜は滅びた。人類は今のこの惑星のキングだが、正しいアクションを取らなければ恐竜と同じように滅びるだろう」と、社会を根本的に変えなければならないことを強調。グラミン銀行のコンセプトについては「金融機関は手元に何もない人に対しては門前払いだったが、これは根本的な過ちだった。たくさんお金がある人にお金を貸し出すのはおかしいと思いませんか?手元に何もない人にこそ、一番に助けなければならないはずです」とした。近年、米国グラミン銀行では20万人を超える貧困女性に対し年間10億ドルが貸し出され、経済的自立の助けにしていることなど、大きな手応えも語った。

 「何かしら世界で起こっていることは大学のキャンパスにも関係があること」とし、学生たちが正しい想像力を育み、行動して新しい世界を築くことに期待も寄せた。

 清水耕介教授がファシリテータを務め、社会課題の解決に取り組んできた政策学部3回生の中西航さんと国際学部4回生の秋友英理賀さんがユヌス博士とトークセッション。イスラム教が主要宗教のバングラデシュで、女性の経済的自立を助けようとしたグラミン銀行の取り組みに反発はなかったかという質問にユヌス博士は、家庭の夫が抗議してくるということはあった「決して攻撃するのではなく、『家計の負担を軽くしたくありませんか?夫人が起業し働けば家族にお金が入ってきます』とフレンドリーに説得しました」と粘り強く対応したと説明。またイスラム教でも「良きイスラム教徒であれば自分が仕える女性を見つけなさい」と預言者が勧めているといい、ビジネスウーマンを育むことは推奨されているとした。

2023/7/13 熊本豪雨 土砂崩れ本堂倒壊 益城町浄恩寺 再興に動き出す

 
倒壊した浄恩寺本堂。本尊は玉春住職が避難させた 3日、活発な前線の影響で熊本県をはじめ九州各地を
豪雨が襲った。線状降水帯が発生した熊本県上益城郡益城町の浄土真宗本願寺派浄恩寺では、朝7時頃に土砂崩れが起き本堂が倒壊する甚大な被害に。瓦礫撤去や土砂のかき出しに追われている。

 玉春勇樹住職(40)が危険を察知して本尊の阿弥陀如来像を運び出したところ、地震のような揺れがあり、壁を突き破って水が流れてきたという。直後、消防団のすすめで玉春住職や家族は避難し、けがはなかった。庫裏と本堂の連結部も圧力で歪みが生じている。納骨堂には被害はなかったという。門徒宅でけが人が出た情報は入っていないが、家屋の床上・床下浸水や農地が土砂流入などで被害を受けているという。

 「また安心して集まれるお寺にして、『良かったね』と言ってもらえるようにするのが私の仕事です」と玉春住職は先を見据えた。5日、再興のための懇志受付口座を設立。念仏道場復旧に動き出した。肥後銀行木山支店 普通預金 口座番号1475972 口座名義…浄恩寺代表役員玉春勇樹。

2023/7/13 大谷大学 学生会が「尋珈琲」開発 コロナ明け象徴する味に


楽しそうにコーヒーを淹れる嶌本さんと伊藤珈琲の伊藤達店長、中野さん 真宗大谷派の宗門校・大谷大学(京都市北区)で6月20日、学生が主体となって制作したオリジナルコーヒー「尋(じん)珈琲(コーヒー)」の完成披露・試飲会が開催された。現在の学生たちの大学生活をコロナ禍が直撃。様々な交流活動が制限されてきた中で、学生会が新コーヒーの開発プロジェクトを通して、全学生、全教職員、商店街の繋がりを再強化。コロナ明けの新たな大谷大学を象徴する爽やかな香りと味わいに仕上げ、今月から同大近くの伊藤珈琲で販売を開始した。

 一楽真学長は披露会で、「本学は地域に支えられ育てられてきた」と挨拶。地元北大路商店街との共存共栄の一環として、伊藤珈琲の協力のもと新商品を開発したと説明した。

 平成24年に作った同大オリジナルコーヒー「はるかぜ」「Young Leaves」に続き、昨年9月に新商品開発の「大谷ほっとコーヒープロジェクト」がスタート。同大に関係する全ての人に「新コーヒーで『ほっと』ひと息つけるひと時」を届けることをコンセプトに、学生会の7人が中心となって試作を重ねた。

 全学生や受験生、教職員らを対象に学園祭やオープンキャンパス等の機会に試飲会を3回開催し、その結果を基に焙煎度を研究して香りと味を改良。「タンザニア・グアテマラ・コロンビアの豆を深煎りブレンドし、ブラックではスッキリと、砂糖やミルクを入れてもしっかりと味わえる」至高の逸品に仕上げた。

 大谷大学が京都にキャンパスを構えた原点である大正2年当時の建物・尋源館(国登録有形文化財)から、「尋珈琲」と命名。同大の願い「自分の生き方を尋ね、考えていく」という意味を込めた。

 プロジェクトの中心メンバーの嶌本愛さん(教育学部3年生)は、「ホットでもアイスでも、すごく美味しいコーヒーが完成した」と感想。中野隆希さん(同)は、「(味の好みなどについて)両極端な意見が出た場合、伊藤珈琲さんにブレンドと焙煎で作ってもらい、7人で試飲してどちらがいいか意見をまとめていった」と振り返った。

 2人は本紙の取材に、「正直、(コロナ禍で)思い描いていた学生生活ではなかった」と吐露。「大学生ならではの集まりやイベントなどが制限されて寂しかった。そんな中で、新入生歓迎委員会に入り、新しい体験や学びがあった。学内外の交友関係を広げることができ、地域の方々と交流する貴重な経験ができてよかった」と語った。

 豆100㌘650円、ドリップバッグ8個入1200円、店で飲むと620円(全税込)。伊藤珈琲HPでネット購入可。

2023/7/13 おてらおやつクラブ「夏のおすそわけ2023」コロナ禍で支援世帯20倍超に


 お寺のお供物のお下がりをひとり親家庭におすそわけする認定NPO法人おてらおやつクラブ(松島靖朗代表理事)は夏休みを控え、全国のひとり親家庭2千世帯を対象に「夏のおすそわけ2023」プロジェクトを実施。多くのお寺に参加を呼びかけている。

 同会にとって、この3年は激動だった。コロナ禍で生活に困窮し助けを求めるひとり親家庭が急増。2020年3月時点でおすそわけを届ける支援家庭は約350世帯だったが、今年3月には20倍以上の約9千世帯に。
 
 数度にわたって支援要請の連絡を送ってくる家庭もあったが、これだけ支援家庭が増えると同じ家庭にたびたびのおすそわけは難しく、今年3月末には2回目以降の家庭への支援を停止。「はじめておすそわけが届く体験を多くの家庭に」という、初回家庭との縁を広げるコンセプトに転換した。全国30万世帯におすそわけ体験を目指す。

 しかし、リピート家庭に対しても年に1度は支援をしたいとの思いがある。支援家庭からは「物価も高く、夏休みも始まり、食費や光熱費など出費が多く、受験生2人を抱えて不安になりました」等の声が寄せられており、光熱費や食費がかさむ夏冬の休暇におすそわけの需要が多いことがわかった。そこで「夏のおすそわけ」を企画。ホームページまたはLINEを通じ、参加表明することで協力ができる。各家庭への配送料も同会が負担する。

 送るものはお供物のお菓子だけでなくお米、パスタなど主食のほか、レトルトカレーや缶詰も歓迎。家庭や子どもたちを励ます絵手紙やメッセージを入れることも推奨されている。野田芳樹理事(臨済宗妙心寺派林昌寺副住職)は「困っている人々は、自分ひとりで頑張らないといけないと思っていたり、孤独感を抱えていることがとても多いんです。そんな時に、励ましのメッセージがあったら、助けてくれる人がいるんだ、とホッとしてもらえる」と話す。

 「全国のお寺が近くの家庭を支え、各地で見守りのネットワークをつくるる」ことが同会の理想。現代的なネットを通じた「かけこみ寺」とも言えそうだ。

2023/7/13 WCRP「人身取引防止」学習会 誰もが加害者になる可能性が 外国人労働者への理解必須


オンラインで開かれた学習会。司会(左上)と発題者の4氏 世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会の人身取引防止タスクフォースは1日、オンライン学習会「宗教者としていのちの尊厳について考える―国際人権とSDGs(持続可能な開発目標)の視点から人身取引防止を目指して」を開き、取り組みや啓発を行っている4人の宗教者が発題。国連が定めた7月30日の「人身取引反対世界デー」を前に理解を深めた。約85人が参加した。

 最初にカトリック大阪教区社会活動センター・シナピス事務局のビスカルド篤子氏が、主に2000年代以降のシェルター活動を報告した。2015年、日系フィリピン人が被害に遭った岐阜事件に直面。被害者は80人に及び、地域も岐阜から広島までの大規模なものだった。「監禁されたフィリピンの人たちが、信仰するカトリック教会に助けを求めた。いろいろなネットワークを通してたどり着くことが出来た」

 岐阜県警の摘発後、保護された人たちは死にそうな表情をし、学齢期の子どももいた。これをきっかけにシナピスは岐阜県女性相談センターから業務委託を受け、毎年協定を更新。岐阜県警とも協力体制を持ち、官民が連携して対処していることを報告した。

 失敗もたくさんあったというビスカルド氏だが、「私たちは一宗教者に過ぎない。そこに困った人がパッと来ると怯んでしまう。私たちは『できない』と言いそうになるが、いったん迎え入れて座ってもらい『どうされたんですか』と聞く姿勢が大事だと思う」と、まずは受け入れることを提言した。(続きは紙面でご覧ください)

2023/7/6 曹洞宗宗議会 ビル修繕費54億円超 ホテルの先行き、来年2月に方針



演説する服部総長 曹洞宗の第142回通常宗議会(浅川信隆議長)が6月26~30の5日間を会期に、東京・芝の檀信徒会館で開かれた。服部内局が最重要課題に掲げるソートービル運営の問題で、今後20年間で生じる修繕費の見通しが54億円超に上ることが分かった。服部秀世宗務総長は演説で、「このまま建物を維持していくべきか、そうでない場合には、具体的にどのような活用をしていくことで宗門にとってよりよい選択となるのか検討する」と述べ、来年2月の次回宗議会までに東京グランドホテルの先行きを含め方針を示すとした。

 ソートービルは、同宗が経営する東京グランドホテルの建物。宗務庁が入り、檀信徒会館の機能などを持たせている。建設から50年経つビルの老朽化対応とともに、コロナ禍の影響もあって続く赤字経営の改善が課題となっている。

 服部総長は2月の前宗議会で、ホテル経営やビルの維持について「ゼロベースで考える必要がある」との認識を示した上で、建物の現状を調査するとしていた。これを受け、三井住友信託銀行(本店・東京都千代田区)が今後20年間、ビルを維持した場合の修繕見通しを試算。累計で約54億6800万円に上ることが分かった。

 服部総長は「今後こうした修繕を行い、ビルを維持していくという判断を無条件に下すのではなく、十分な検討を踏まえる必要がある」と強調。宗務庁や宗議会議場などビルに持たせている機能をどうすべきか考えねばならないとした上で、周辺の所有不動産の活用も模索すると述べた。

 同宗はビル周辺に、宗務庁分館や賃貸ビルなど複数の建物と土地(ソートービル含め敷地計約4100平方㍍)を所有している。服部総長は「宗門への利益還元がより多く期待できる活用方法があるはずであり、このままビルを維持していくことと比較することに十分な価値があるはずだ」と語った。(続きは紙面をご覧ください)

2023/7/6 仏教伝道協会 新理事長に沼田恵明氏


沼田恵明理事長 (公財)仏教伝道協会は6月23日に理事会を開催し、桂紹隆理事長の任期満了に伴い新理事長に㈱ミツトヨ代表取締役社長の沼田恵明(ぬまた・よしあき)氏を選任した。

 沼田新理事長は1965年生まれ。57歳。沼田智秀前会長の長男。1998年に㈱ミツトヨ入社。2002年取締役、2010年常務取締役、2015年代表取締役・専務執行役を経て、2017年代表取締役社長・社長執行役員に就任。また2006年から仏教伝道協会評議員、2017年から理事を歴任している。

2023/7/6 日宗連理事長 田中氏が3度目就任


 (公財)日本宗教連盟(日宗連)は6月30日、都内で理事会を開き、宍野史生理事長(教派神道連合会)の退任により、新理事長に神社本庁総長の田中恆清氏(79)を選定した。田中氏の就任は3度目。

 日宗連理事長は、連盟を構成する教派神道連合会(教派連)、神社本庁、新日本宗教団体連合会(新宗連)、日本キリスト教連合会(日キ連)、全日本仏教会(全日仏)の5団体代表が慣例で1年交代で就任する。

2023/7/6 ジャイ・ビーム! 佛大に轟く 佐々井秀嶺氏 4年ぶりに帰国


アンベードカルの肖像を前に熱弁する佐々井氏 300人を超える「ジャイ・ビーム!」の声が轟く。インドで「不可触民」(ハリジャン)として差別されている人々を仏教に改宗させ、カースト制度の鎖から解き放つ活動を50年以上続けている佐々井秀嶺氏が5月に4年ぶりに帰国し、全国で講演。6月24日には京都市北区の佛教大学に招かれ、講演会「若者たちへ」を開いた。

 佐々井氏はまず、釈尊と、インド不可触民解放の父と呼ばれる憲法学者ビームラーオ・アンベードカルの肖像を前にした祭壇で法要を営み、拳を突き上げて会場と共にアンベードカル万歳を意味する「ジャイ・ビーム!」を叫んだ。この8月には88歳になる佐々井氏だが、天を貫くような力強い声は健在だった。

 佐々井氏は戒律の意義や改宗に取り組んだ半生を語った。「インドで虐げられた何千万の人々は、誰一人として(神々のことを)勉強する資格がなかった。(ヒンドゥー教の)寺に入って合掌する資格がなかった。神々を拝む資格がなかったのだ!」と、1966年のインド渡航後に目の当たりにした差別に心を揺さぶられ、アンベードカルの後継者を志したことを振り返り、声を震わせた。会場からの、佐々井氏の旺盛な文筆活動の源泉を問う質問では、最近は殆ど書いていないと断りつつ、ドイツの文豪ヘルマン・ヘッセの小説『シッダールタ』の影響を挙げた。

 会場には佐々井氏が若い頃に書いた手記や詩が展示され、「夫れハリジャンに差別なし 一切がハリジャン也 一切の人皆ハリジャン也」といった情熱がほとばしる筆致に来場者は心を打たれていた。(続きは紙面でご覧ください)

2023/7/6 第47回正力松太郎賞 本賞・稲佐英明氏(佐賀県白石町御室派玉泉坊住職) 奨励賞・グループ阿難(新潟県上越市大谷派稱名寺)


 仏教精神に基づき日曜学校や子ども会などを通じて青少幼年の教化に尽力している個人や団体を顕彰する第47回正力松太郎賞が6月28日、(公財)全国青少年教化協議会(全青協)から発表された。本賞は、精神修養道場を実践している佐賀県白石町の真言宗御室派稲佐山玉泉坊住職の稲佐英明氏(73)。奨励賞は音楽による演奏会などを続けている新潟県上越市の真宗大谷派稱名寺の「グループ阿難」(代表=保倉謙雄住職)。表彰式は報告会などを兼ねて9月28日、東京グランドホテルで行う。

 本賞の稲佐氏は、地元の中高で教員を務めていた1994年、「精神修養道場」を建立。瞑想や自然体験などを実施し、現在は毎週日曜日の夜に不登校や引きこもりの児童・生徒の学習の遅れを取り戻すための勉強会を開いている。毎年夏には「青少年合宿錬成会」を行い、子どもたちの情操教育の一助としている。

 奨励賞のグループ阿難は1987年の初演以来、オカリナやギターなどの音楽にのせて、詩や童話を語る手法を通じて、人々の仏教情操の涵養と心の潤いを提供してきた。保倉代表(62)はオカリナを担当。小学校のほか他の施設などに招かれ、地域に根ざした活動を続けている。(受賞者のコメントは紙面でご覧ください)