展望2012 21世紀の「小僧伝」構想中(マーク・ロウ)

数年前、ある有名な日本の宗教学者に笑われた。「ええっ! 日本仏教の現状を研究しているのか? そんなもんあるのか?」 多分冗談半分で言ったのだろうが、間違いなく本人はびっくりしていた。「葬式仏教」「寺離れ」「坊主丸儲け」などの一般人が持っているネガティブなイメージを、学者ですらある程度は持っている。私は、この堕落説的な考えと15年以上戦って来た。

今までの私の研究は、新しい墓、つまり永代供養墓(檀家にならなくても入れる、跡継ぎが居なくても入れる墓)から見る寺の現状だった。高齢化、核家族化、過疎化、それぞれの流れで檀家制度が崩壊し、寺仏教はどうなるのか? 「ポスト檀家」仏教はどのような形になるのか? という問題を宗教人類学方法で考察してきた(昨年11月、シカゴ大学出版で英文の本「Bonds of the Dead」を出版した)。何故そのような研究が必要かと聞かれたら、今までの仏教学と宗教学の「分業」で既成仏教は見落とされたからである。つまり、仏教学者は経典、元祖、教義を中心に研究をし、宗教学者は、大体いわゆる「新宗教・新興宗教」に興味を持ち研究するが、どちらも明治以降の日本仏教を研究するものはいない。

勿論、様々な宗門研究所で宗勢調査をしたり、データ分析を行ったりする研究もあるが、それはまた社会学的なものであって、現場の実際をちゃんと把握できるものではないと思っている。大村英昭先生が書いた通り、「現場の立場から、『現場ある教学』を確立していくべき」(曹洞宗総合研究センター編『葬祭―現代的意義と課題』)ということになるだろう。

私の今の研究プロジェクトでは、その現場の声を聞こうとしている。 14ヶ月(今年の8月下旬まで)宗派を問わず全国150人以上の僧侶にインタビューしながら、お寺の実際、悩み、希望等を把握したいと思っている。寺生まれ・在家・尼僧・男僧・修行中・兼務中・副住職・住職・引退後等の僧侶の都市・地方・過疎地のお寺の現状や跡継ぎ問題等の話をまとめている。昔の偉い老僧ではなく現代の「普通」の僧侶をターゲットにして、21世紀の「小僧伝」を書きたいと思う。私は、「小僧伝」を決して悪い意味ではなく、今までの仏教学が有名な僧侶を中心に研究していたのに対して、現場の僧侶の実状の考察こそ重要ではないか? という前提から始めた。

これで上田紀行氏の『がんばれ仏教!』(2004)を思い浮かべる方も少なくないと思うが、『がんばれ仏教!』で出た僧侶は典型的ではなくごく一部の特別な僧侶である。全国を回って、お坊さんたちとその本について話をすると、「そこはね、偉いね。しかし、うちのお寺では無理だよ」と必ず言われる。大きな活躍どころか自分の寺の日常の仕事だけで精一杯である僧侶が大多数であるからこそ、小僧伝が必要だと再認識させられた。

日本仏教の現状を研究している宗教学者だと偉そうに思われるが、実際は、全国を回って夜遅くまでお坊さんたちと飲みながら話をするのが私の仕事である。酒と話好きの私には、間違いなく最高の仕事である。しかしよくお坊さんに言われるのは、「マークはいっぱいお坊さんと喋っているけど、マークが知っているお坊さんは、皆活躍したり面白いことしたりするお坊さんたちだから、まだ何も分かってない。うちの教団の坊主の7―8割はつまらなくて、何を信じているか分からん」である。

どんな宗派でも、同じようなことを言われる。正直にいうと、一番仏教界を悪くいうのは、僧侶である。しかし、そういわれると、具体的にどういう意味で悪い、どういうふうにつまらないかと私は聞きたい。やはり現場の実際を理解しようとするなら、いい意味でも悪い意味でも僧侶像を調査しなければならない。

だから、悪い僧侶像を調べるだけではなく、「自分の葬儀をお願いしたいほど、部分的だけではなく、全体として尊敬する僧侶と会ったことありますか」のような質問で、理想的な僧侶像も描こうとしている。

さて、ここでどんなテーマが出てきたかを短く紹介したいと思う。先ず、仏教学者が一番びっくりするのは、寺のアイデンティティーが宗派の違いより、地域性で違う事が大きいというところである。寺の状況(大きさ、施設、檀家・門徒の数など)は言うまでもなく影響が大きいが、地方の特徴、檀家・門徒が農産か漁業か、歴史の背景などを見落としたら、その寺の現状を把握しにくくなるような気がする。そのほか、世襲問題は一番影響が大きいのではないだろうか。跡継ぎが居るかどうかだけではなく、世襲というのは、全ての教団の育成、教育施設、修行道場のやり方・考え方に対してかなり大きく影響する。これを理解するため、勉強・修行中の僧侶、宗門大学で教えている先生方、同じ寺の二・三世代の僧侶をインタビューしている。

最後に、私の研究に興味をもたれ話をしてみたい、また意見を言いたい、文句を言いたい等ありましたら是非連絡して下さい。よろしくお願いします。

まーく・ろう/1968年生まれ。米国プリンストン大学修士課程を経て、京都大学大学院修士課程に進み、現代の葬式と仏教を研究テーマとする。現在はカナダのマックマスター大学宗教学科准教授。東京大学宗教学外国人特別研究員として来日中で、日本僧侶インタビューを続けている。熱烈な阪神タイガースのファン。

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